喃々なんなん)” の例文
転宅の事を老人に語るも無益むやくなり、到底その意に任せて左右せしむ可き事に非ずとて、夫婦喃々なんなんの間に決したることならんなれども
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
丁度此の様に手に縋られ喃々なんなんと説かれた時の様を思い出した、余り好い気持はせぬから成る丈早く此の荷物を長椅子へ任せて了った。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
三十人の会員の約三分の一は婦人ですが、その婦人達が一人残らず顔を隠して、翩翻へんぽんとして舞い、喃々なんなんとしてお喋舌しゃべりをするのです。
法悦クラブ (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
お早うございますが各自てんでに交換され、昨日のこと天気のよいことなど喃々なんなんと交換されて、気の引き立つほどにぎやかになった。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
両方の家の狭間ひあわいへ通う風が何とも云えないほど涼しいので隣の二階でも裏窓の障子を明け放っているに違いない。喃々なんなんとして続く話声の中に突然
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
喃々なんなんとしゃべりつづけるのが、もとよりあまったるい仏蘭西フランス語だから、とても聞いてはいられない、それも喃々は老人だけで、奥方は厳然と窓に頬杖つきたまい
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
またわが邦は天然の商業国なりというがごときの問題を喃々なんなんするがごとき迂遠の労を採るを要せんや。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
静の故事ふるごとなど——外に向っては、天下の経綸を論じ、且、行うのは、大丈夫だいじょうふの本懐なり、又、使命でもござりまするが、内へ入って、喃々なんなんと、惚れた女の手玉にとられるのも、人間、男女の
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
人は宇宙の創造に参与せずして少しもこの事を知らない。そして今いたずらにその貧弱なる智嚢ちのうを絞りつくして宇宙と造化の秘義について知らんとし、すこしばかりの推測の上に蝶々ちょうちょう喃々なんなんする。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
見よ、彼等の夫婦手を執り合って外出する時の有様などは、如何にもむつまじげにうるわしく、楚々衣にもえぬらしい妻を良人おっとたすけて、喃々なんなん私語して歩いているところを見ては殊勝であることを。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「山果、猴摘こうつミ、池魚白鷺ちぎょはくろ含ム、仙書一両巻、樹下読ンデ喃々なんなんの境へ」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
てて加えて沼南夫人の極彩色にお化粧した顔はお葬い向きでなかった。その上に間断なくニタニタ笑いながら沼南と喃々なんなん私語して行くていたらくはひつぎを見送るものを顰蹙ひんしゅくせしめずにはかなかった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
喃々なんなん私語しごする貴婦人達を叱咜しったして、「こんな豚共ぶたどもかせるピアノではない」とピアノのふたとざしてサッサと帰ったこともあり、普仏戦争当時、戦塵せんじんを避けたリヒノフスキー邸で
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
予は又其またその空模様を永く見て居るに堪えないで家に入った。妻も入って来た。三人の児の姉等二人も入って来た。又々互に不安心な事を云い合って、れとが不安の思いを増す様な話をしばら喃々なんなんした。
大雨の前日 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)