おんみ)” の例文
老母ら「これまでおんみが世話しつるもの、何とぞ成仏するよう葬りてよ」女房ら「縊れて死ぬるとは誰にいかなる遺恨のありてぞ」
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
うそをつきたもうな、おんみは常に当今の嫁なるものの舅姑しゅうとに礼足らずとつぶやき、ひそかにわがよめのこれに異なるをもっけのさちと思うならずや。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
かくこころざしつらぬあたわずして、再び帰郷するのむなきに至れるは、おんみに対しまた朋友ほうゆうに対して面目なき次第なるも、如何いかんせん両親の慈愛その度に過ぎ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
廃頽詩人ヴェルレイヌ、おんみだけだ! 知っている者は! 秋の呼吸いぶきを、落葉の心を、ひとり死に残った蛾の魂を。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
われらが知己、山の真名子たる老画伯よ、おんみは俺に、なんたる深い喜びを与えてくれたことか……。卿の自愛と大成を、俺は心から、大山ずみに祈るものだ。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
白金プラチナの羽の散るさまに、ちらちらと映ると、釵は滝壺に真蒼まっさおな水に沈んでく。……あわれ、のろわれたる仙禽せんきんよ。おんみは熱帯の鬱林うつりんに放たれずして、山地の碧潭へきたんたくされたのである。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黄生『その道士の名は何ぞ。おんみをば救ひ出でなむはいかに』
『聊斎志異』より (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
絶望の余にかかる恵みの音ずれあり、ことさら夫が好きの物と聞くからに、感謝の語のすべることも無理にはあらず、「夫に勝るおんみの親実、しみじみ嬉しく忘れはせじ」
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
白金プラチナはねの散るさまに、ちら/\と映ると、かんざし滝壺たきつぼ真蒼まっさおな水に沈んで行く。……あはれ、呪はれたる仙禽せんきんよ。おんみは熱帯の鬱林うつりんに放たれずして、山地さんち碧潭へきたんたくされたのである。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「そは兄貴真実に」「無論のことなり」「そははなはだよろしからず、おんみ姐子あねごをよびて間もなければ、卿は今姐子と離るべからず、よし卿に恨みなしとするも姐子の心中も思いやられよ」
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)