卑俗ひぞく)” の例文
やれ理想、やれ人格、信仰だの高尚こうしょうだのと、看板かんばんさわぎばかり仰山ぎょうさんで、そのじつをはげむの誠心せいしんがない。卑俗ひぞくな腹でいて議論に高尚がる。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
が、そのあひだ勿論もちろんあの小娘こむすめが、あたか卑俗ひぞく現實げんじつ人間にんげんにしたやうなおももちで、わたくしまへすわつてゐることえず意識いしきせずにはゐられなかつた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ことほか御機嫌ごきげんで、「村の祭が、取り持つえんで——」という、卑俗ひぞくな歌を、口ずさんでいましたが、ぼくの寝姿をみるなり
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
さざえのふたは、金槌かなづちでも、開かないことを知っていた。さざえの貝のしりあぶれば、自然、中身は抜けるという卑俗ひぞくな道理を、かれは先頃から考えていた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
扱い方によっては必ずしも卑俗ひぞくとはいえないのだけれど、たとえば笑いにおける「クスグリ」のごとく、「お涙頂戴」や「こわがらせ」やを意識して、なんら深い洞察もなく
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
悠久ゆうきゅうなる天地の間にいかに自己が小なものかということを強く強く考えて見たまえ。卑俗ひぞくな欲望にあせって自我じが執着しゅうちゃくするのが馬鹿らしくなってくるよ。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)