半揷はんぞう)” の例文
彼は水のんである半揷はんぞうを置き直し、房楊子を使いながら、ここが勝手の土間だったと思い、慌てて首を振り、眼をそむけた。
ちいさこべ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一人の女は、半揷はんぞうの湯をたらいいで、助手に手伝わせながら首を洗っていた。洗ってしまうとそれを首板の上へ載せて次へ廻す。もう一人の女がそれを受け取って髪を結い直す。
かわやへはいっているとき窓から西瓜すいかを投げ入れたのと、酔って寝ている枕許まくらもと半揷はんぞうを置いて、起きると水をかぶるような仕掛けをこしらえたときだ
評釈勘忍記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
半揷はんぞうや、たらいや、首板や、机や、香炉こうろや、屋根裏の場面の再現のために必要な小道具類が揃えられると、気の毒な道阿弥は肩から以下を床下にうずめて、寂然じゃくねんたる一箇の首と化した。
彼が出ていったとき、そこには六七人いて、彼を見るなり、口ぐちに祝いを述べながら、半揷はんぞう(洗面用のたらい)を持って来たり、水をんだりした。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……厳寒の未明に起こし、裏の小川へいって、薄氷を破って半揷はんぞうへ水を汲み洗面させる。いかに寒くとも肌着に布子、半袴よりほかには重ねさせない。
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
甲斐は立って納戸へゆき、また土間へおりて、水を入れた半揷はんぞうと、砥石といしと台とをそろえ、やがて剃刀かみそりを研ぎはじめた。
そこへはいって、はかまをぬいでいると、お勝が挨拶に来、あとからおなをという女中が、半揷はんぞうと手拭を持って来た。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
大きな水瓶みずがめが二つあり、三尺に六尺の立流たちながしがあって、飲み水の補給は云うまでもなく、勘定方の者が洗面したり、汗を拭いたりするための半揷はんぞうなども備えられ
いねはこずえを抱いて、裏庭へおりてゆき、わたくしは半揷はんぞうに水を取ってもらって、肌の汗を拭いた。
やぶからし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それから戸板で担ぎこまれたお祖父さん、裏のさかな屋の女房、露次ぐちにあったなつめの樹、幾つもの研石や半揷はんぞう小盥こだらいのある仕事場、みんなはっきりと眼にうかんできた。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「構わず開けてくんな、誰だい」「おれだ」障子を開けて入るとひと間きりの六じょうのまん中で、ふんどしひとつになった若者が半揷はんぞうだの手桶ておけだのを並べ、爼板まないたを前に据えて魚を作っていた。
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのとき、手拭をゆすぐのに使った、蒔絵まきえ半揷はんぞうに、そのふしぎな紋が付いていた。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……妻の七重は部屋の隅で賃仕事の縫物をしていたが、良人おっとの姿をみると膝の上の物を押し片付け、「お帰りあそばしませ」と云いながら、半揷はんぞう(洗面おけ)と着替えを持って出て来た。
薯粥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
山村座の茶屋で見た、あの半揷はんぞう蒔絵まきえの紋。丸茂の家の釘隠しの金具。どちらも同じであり、どこかで見覚えがあると思ったが、それは、十六歳のときに、この調書を見た記憶が残っていたのである。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
半揷はんぞうに三分の一も吐き、そのまま失神してしまった。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)