)” の例文
定罰のような闇、膚をく酷寒。そのなかでこそ私の疲労は快く緊張し新しい戦慄を感じることができる。歩け。歩け。へたばるまで歩け
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
玄宗の夢にあらわれた鍾馗のいてくらった鬼は、その耗であるのと例の考証をやってから、その筆は「四方よもの赤」に走って
貧乏神物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
仰ぎ見る大檣たいしょうの上高く戦闘旗は碧空へきくうたたき、煙突のけぶりまっ黒にまき上り、へさきは海をいて白波はくは高く両舷にわきぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
彼は実に生をおしまざりしに非ず、欲せざりしに非ず、彼は惰夫だふが事に迫りて自らくびるるが如き者に非ず、狂漢が物に激して自ら腹をくが如きに非ず
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
折々鋭い稲妻の閃光が暗い闇をいて一瞬の間、周囲を青白い輝きの中に包みはしても、光りの消えたと同時に、またその暗い闇がすべてを領してしまう。
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
其中に闇をいて電光が閃き始めた。遠方で轟く雷鳴の音が何処からともなくかすかに耳に伝わる。夜目にも万象は漸く惨憺さんたんたる有様を呈して来たことが窺われる。
木麻黄とパンダナスがアーチのように日蔭をつくっているカナカ道を行くと、くような鋭い叫び声が林をつきぬけてきこえてきた。青木は驚いたような顔で
三界万霊塔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
わたしが夜の九時頃に涼みから帰ってくると、徳さんの家のなかからくような女の声がひびいた。格子の外には通りがかりの人や近所の子供がのぞいていた。
ゆず湯 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
赤土をいたような山の壁へ日が当る。昨日、一昨日の雨を吸込んだ土は、東から差す日を受けて、まだ乾かない。その上照る日をいくらでも吸い込んで行く。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして、彼女はひっきりなしに、剣の切っ先のように空気をく調子外れの鳴き声をたてている。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
そして一斉に廻れ右をして消え失せる。一分もたたぬうちに、彼らは矢のような早さで再びグーセフめがけて襲いかかる。そしてぐるりの水を電光形にきはじめる……。
グーセフ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そういうわけでなかなか世事に通じていた。たとえばどこそこでは雷公かみなり蜈蚣むかでのお化けをき殺した。どこそこでは箱入娘が夜叉のような子を産んだ。というようなことなど好く知っていた。
風波 (新字新仮名) / 魯迅(著)
いきなり横合から斬りかけた一刀、闇をいて肩口へ来るのを
而しての革命家なるものは、生栗の殻をくものにあらずや、生豆の莢を破るものにあらずや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
こうやって初冬の晴れた大空をいて休戦を告げる数百千の汽笛が鳴り渡るとき、どうして人々は敗けて、而も愛するものを喪った人々の思いを察しようとしないのだろう。
時代と人々 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
筑波の頭からくういて湖に落込むいなずまぴかりぴかりと二筋三すじ、雷が鳴る、真黒の雲見る見る湖のそらに散って、波吹き立つる冷たい風一陣、戸口の蘆のそよと言い切らぬ内に
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
其東の尖峰の後から雲が湧き上っては鋭い鋒先にかれている。随分高く見える。ザラザラに霉爛ばいらんした白砂の上をすべりながら急な道を下り切ると一ノ瀬の人家の前に出た。十一時である。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
栗の実りておのずから殻を脱するの時あるを知らば、また何ぞ手を刺されてみずから殻をくを要せんや。豆の熟して自からさやを外るるを知らば、また何ぞ手を労して自から莢を破るを要せんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)