切物きれもの)” の例文
随竜垣に手を掛けて土庇どびさしの上へ飛上って、文治郎鍔元つばもとへ垂れるのりふるいながら下をこう見ると、腕が良いのに切物きれものが良いから、すぱり
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
気を判然はっきりして出直して、切物きれものか、刃物の歯ごたえのあるようにして、私に断然きっぱり、(女と切れない。)と言わしてくれ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
切物きれものの皿に当って鳴る音が時々した。はさみで肉をじょきじょき切るような響きが、強く誇張されて鼓膜を威嚇いかくした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そつと髪を切らうとして居る所へ母親があらはれて来て、あの小楠公せうなんこうの自殺をいさめたやうなことを、母親が切物きれものを持つた手を抑へながら云ふやうな光景が見えて来ました。
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
先達せんだっても福地先生から承わりましたが、大宝令たいほうりょうとか申しまして、文武もんぶ天皇さま時分に法則も立ちまして、切物きれもの仮令たとえ鋏でも小刀でも刀でも、わが銘を打つ事に致せという処の法令で、是だけは
親仁おやじが大目金めがねを懸けて磨桶とぎおけを控え、剃刀の刃を合せている図、目金と玉と桶の水、切物きれものの刃を真蒼まっさおに塗って、あとは薄墨でぼかした彩色さいしき、これならば高尾の二代目三代目時分の禿かむろ使つかいに来ても
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
切物きれものは危い、よく探さっしゃい、針を使ってさえ始める時としまう時には、ちゃんと数を合わせるものだ。それでもよく紛失するが、畳の目にこぼれた針は、奈落へ落ちて地獄の山の草に生える。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)