切岸きりぎし)” の例文
本間、渋谷の手の者が、真っ先立って突き進み、堀の中へこみ入りこみ入り、忽ち切岸きりぎしの下まで押し進み、逆茂木さかもぎを引きのけ打ち入ろうとした。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
上を見ると、大きな空は、いつの世からか、仕切られて、切岸きりぎしのごとくそびえる左右のむねに余された細い帯だけが東から西へかけて長く渡っている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一人の老いさらぼうた老翁ろうおうが、夕闇の切岸きりぎしの端に腰かけて、遠くの方を見つめたまま、石像の様にじっとしているのだ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いつか一度、私はその夢のやうな坂を登り、切岸きりぎしの上にひらけてゐる、未知の自然や風物を見ようとする、詩的なAdventureに駆られてゐた。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
武門にして、日頃は人並の言を吐いている又兵衛も、いざとなっては、わずか数丈の切岸きりぎしひるんで、馬を
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
裸体はだかの雲助が岩の上からバタバタと突き落されたところは、ちょうど千破剣ちはやの城をせめた北条勢が、くすのきのために切岸きりぎしの上から追い落されるような有様ですから、目をすまして見物していると
いつか一度、私はその夢のやうな坂を登り、切岸きりぎしの上にひらけてゐる、未知の自然や風物を見ようとする、詩的な Adventure に驅られてゐた。
散文詩・詩的散文 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
後ろは切岸きりぎしに海の鳴る音を聞き、砕くる浪の花の上に舞い下りては舞い上るかもめを見る。前は牛を呑むアーチの暗き上より、石に響く扉を下して、刎橋はねばしを鉄鎖に引けば人のえぬほりである。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
切岸きりぎしから、飛び込む肉塊にくかいの群、舟の上から透いて見える池中の人魚共、魚紋と乱れる水中男女の「子を取ろ、子取ろ」、人間のたきと落下するウォーターシュートの水しぶき……客達はすでにして
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
底をのぞいて見ると、切岸きりぎしは見えるが底は見えない。庄太郎はまたパナマの帽子を脱いで再三辞退した。すると女が、もし思い切って飛び込まなければ、ぶためられますが好うござんすかと聞いた。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)