函根はこね)” の例文
函根はこね、久能山は大事な要害だ。敵に取られては面白くない。……まあ八郎聞くがいい、どうだ冴え切った三味線ではないか
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私が、ともかくもお前と別れることになって、当分永い間東京に帰らぬつもりで函根はこねにいって、二十日はつかばかりいて間もなくまた舞い戻って来た時
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
しかしそれが、スウィスの代りに函根はこねの山になり、氷河のクレッヴァスの代りに、安山岩の堆石の下、苔蒸す岩清水に、洗われる屍となったのであった
はや下晡ななつさがりだろう、日は函根はこねの山のに近寄ッて儀式とおり茜色あかねいろの光線を吐き始めると末野はすこしずつ薄樺うすかばくまを加えて、遠山も、毒でも飲んだかだんだんと紫になり
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
此の頃にはかに其の影を見せぬは、必定函根はこねの湯気す所か、大磯おほいそ濤音なみおとゆるあたり何某殿なにがしどのと不景気知らずの冬籠ふゆごもり、ねたましの御全盛やと思ひの外、に驚かるゝものは人心
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
行親 天下ようやく定まりしとは申せども、平家の残党ほろびつくさず。かつは函根はこねより西の山路に、盗賊ども徘徊はいかいする由きこえましたれば、路次の用心としてかようにいかめしゅう扮装いでたち申した。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その翌日、神戸行きの急行列車が、函根はこね隧道トンネルを出切る時分、食堂の中に椅子を占めて、卓子テイブルは別であるが、一にん外国の客と、流暢りゅうちょう独逸ドイツ語を交えて、自在に談話しつつある青年の旅客りょかくがあった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あれは何でもあなたが函根はこねに行っていた時分か、それとも国に行ってらしった時分か、たしか去年の春だったろうと思う。私、買い物に×町の通りに行って、姉といっしょに歩いてたんです。
雪の日 (新字新仮名) / 近松秋江(著)