処々しょしょ)” の例文
旧字:處々
謡曲のうちでも比較的芝居がかりに出来ているはち安宅あたか等ですら、処々しょしょ三四行乃至ないし十四行ずつ要領の得悪えにくい文句が挿まっていて
謡曲黒白談 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何峠から以西いせい、何川辺までの、何町、何村、あざ何の何という処々しょしょの家の、種々の雑談に一つ新しい興味ある問題が加わった。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
いままで登ってきた山は山の一段であって、更に巌石がんせきが草原の海に、処々しょしょ島のように表われて居る山腹を攀じて、上の峰まで行かねばならぬ。
武甲山に登る (新字新仮名) / 河井酔茗(著)
強い電磁石を使って重い鉄片などを吸い付けて吊し上げ、汽車や汽船の荷上げや荷積みをする器械が近来処々しょしょで用いられる。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
堀割の岸には処々しょしょ物揚場ものあげばがある。市中しちゅうの生活に興味を持つものには物揚場の光景もまたしばし杖をとどむるに足りる。
玫瑰まいかいの芳烈なるかおりか、ヘリオトロウプの艶に仇めいた移香うつりがかと想像してみると、昔読んだままのあの物語の記憶から、処々しょしょの忘れ難い句が、念頭に浮ぶ。
『新訳源氏物語』初版の序 (新字新仮名) / 上田敏(著)
いや、それよりも酸鼻さんびなのは、彼の刀にあたって、処々しょしょうめいたり、這ったりしている傷負ておいや死人だ。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これを結びたる天糸は、本磨き細手の八本りにて、玲瓏たる玉質、水晶の縄かとも見るを得べく、結び目の切り端の、処々しょしょに放射状を為すは、野蚕やさん背毛はいもうの一むらの如し。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
奇妙な黒い棺桶のような荷物をよく見れば、金色の厳重な錠前が処々しょしょに下りている上、耳が生えているように、丈夫な黒革製の手携てさげハンドルが一つならずも二つもついていた。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
男も自分の体がすっかり健康で何事もないように思われる。外には日が照っている。町からはにぎやかな物音がする、何もかも活動している。向いの家には窓の戸が処々しょしょ開けてある。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
まざまざとして発見されたのであった、その他湖上の処々しょしょに、青い松の木が、ヌッと突出つきでていたり、真赤に熟した柿の実の鈴生すずなりになっておる柿の木が、とる人とてもなく淋しく立っているなど
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
ただ街路樹の処々しょしょに残った枯葉が、クローム色の星空の下で、あるか無いかの風にヒラリヒラリと動いているばかりであった。
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)
なるほど布の目には粗密がある、長く使っていれば処々しょしょに目の大きい処が出来てそこから蚊がはいるかも知れぬが、それにしても今日一般の蚊帳の目は細か過ぎている。
蚊帳の研究 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私たち二人は雑草の露にはかますそうるおしながら、この森蔭の小暗おぐらい片隅から青葉の枝と幹との間をすかして、彼方かなた遥かに広々した閑地の周囲の処々しょしょに残っている練塀ねりべいの崩れに
嬢がここで一寸息を切ると場内の処々しょしょに軽い……けれども深い驚きの響きを籠めた囁きの声が、悲風のように起った……と思ううちに又ピタリと静まった。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)