冥土よみじ)” の例文
あこがれ慕う心には、冥土よみじの関を据えたとて、のあくるのも待たりょうか。し、可し、みなかずば私が自分で。(と気が入る。)
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
俺はもう助かる見込みはない、これを言わないと心残りがして、冥土よみじの障りになる。形見にやるから、掘出して遣ってくれ——。
あのまた霧の毒といふものはおそろしいものでなう、お前様、今日はあれが雨になつたればこそうござつた、ものの半日も冥土よみじのやうな煙の中に包まれて居て見やしやれ
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さっと揺れ、ぱっと散って、星一ツ一ツ鳴るかとばかり、白銀しろがね黄金こがね、水晶、珊瑚珠さんごじゅ透間すきまもなくよろうたるが、月に照添うに露たがわず、されば冥土よみじの色ならず、真珠のながれを渡ると覚えて
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
逢うが別れの今世こんじょうに、臨終いまわのなごりをおしむため、華燭かしょく銀燈輝いて、見返る空に月のごとき、若竹座を忍んで出た、慈善市バザアの光を思うにつけても、横町の後暗さは冥土よみじにもまさるのみか。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
されば冥土よみじ辿たどるような思いで、弥生町やよいちょうを過ぎて根津までくと、夜更よふけ人立ひとだちはなかったが、交番の中に、蝶吉は、かいなそびらねじられたまま、水を張った手桶ておけにその横顔を押着けられて
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)