内緒ないしょ)” の例文
それゆえせめてのこころから、あたしがいつもゆめるおまえのお七を、由斎ゆうさいさんに仕上しあげてもらって、ここまで内緒ないしょはこんだ始末しまつ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ひどく啖呵たんかの切れる——そして酒がいわせるのか、妙に自暴やけをふくんだ女のことばに——困りぬいた女中はまた奥の内緒ないしょへもどって行った。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは内緒ないしょだけれどね、うちの人はユダヤ人の前線視察員附しさついんつきになっているんだってよ。ユダヤ人についていれば、絶対に生命のところは安全なんだってさ。
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「それはそうと親方、お前さんは何かこの道庵に内緒ないしょの頼みがあると言いなすったから、それでわしはやって来たのだが、内密ないしょの頼みというのはいったい何だね」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おきんは、維康が最初蝶子に内緒ないしょで梅田へ行ったと聴いて、これはうっかり芝居に乗れぬと思った。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
その女のひとのために、内緒ないしょでお金の要る事があったのに違いないと私は思いました。
おさん (新字新仮名) / 太宰治(著)
「やっぱりお前だった。……よく来た……待っていた……この金で身なりを作って明日あすの夜中過ぎ一時頃にわたしのへやにお出で。小潜りと裏二階の下の雨戸を開けておくから。内緒ないしょだよ」
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
思いがけないお世話になったが、こうしていると、ひとり吉野どのへ気づかいをわずらわすばかりでなく、扇屋の内緒ないしょへも、迷惑のかさむばかり。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな時、わい夜店は眠うなるさかい嫌やと、心にもないことを言うのはむろん私でした。一つには昼間おきみ婆さんに貰った飴をこっそり一人内緒ないしょで食べたいのです。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
大尽金というのは大身たいしんや金持の若旦那なんぞが、親や家来に内緒ないしょで遊ぶ金を貸すんですね、これは思い切って高い利息を取って、そうして取りはずれのない仕事、ナニ
その脅迫状の内容というのは、小山田氏と静子夫人の夫婦としての夜の生活を、非常に詳細しょうさいに書きつづってあるのです。それは夫妻ならでは絶対に知ることのない内緒ないしょごとでした。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一夜明けて修業式の朝、起きて素早くシャツを着込み、あるときは、年とった女中に内緒ないしょにたのんで、シャツの袖口のボタンを、更に一つずつ多く縫いつけさせたこともありました。
おしゃれ童子 (新字新仮名) / 太宰治(著)
清吉が立ちかけると、こう云って、そこの内緒ないしょのぞき、今おかみさんの求めた反物を沁々しみじみ見ているおんながあった。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「その小島さんというお方がいらっしゃるならば、その方へお手紙を内緒ないしょで頼まれて参りました」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「これは内緒ないしょよ。気をつけないといけないわ。この村のげじげじ牧師のネッソンが、見慣みなれない七八人の荒くれ男を案内して、下から登ってくるわ。あたし望遠鏡で、それを見つけたのよ」
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
乾かす時に、つい封じ目が切れまして、その時に懇意な人に読んでいただきました、その人は内緒ないしょを人に洩らすような人ではございませんから、どうぞ御勘弁あそばして
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「オ、禿かむろさんか。じつはね、ご内緒ないしょのおっかさんに会いたくって来たんだが」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは内緒ないしょだけれどね、うちの旦那様は、お若いときダイナマイトと鶴嘴つるはしとをもって、日本中の山という山を、あっちへいったりこっちへきたり、真黒になって働いておいでなすったんですとさ。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これは内緒ないしょですが、貴女も探偵だからいいますが、僕のところでは、訪問者が入口のところに立ったとき、自動的に身長を測ることにしています。もちろん光電管フォト・セルをつかえば、わけのないことです。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)