克己こっき)” の例文
しかもその修養のうちには、自制とか克己こっきとかいういわゆる漢学者から受けいで、いておのれめた痕迹こんせきがないと云う事を発見した。
長谷川君と余 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黙々たる田舎いなかで、善良な誠実な心の人々が、その平凡な一生の間、りっぱな思想を胸にいだき、日々の克己こっきをつとめてる——それこそ
また、その克己こっきと、戦いの艱苦かんくとをくらべれば、戦火のごときも、物の数ではない。いかに烈しかろうと、人と人との戦いだというに尽きる。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは克己こっきと、にもかかわらずとの生活であり、厳格な、確乎かっことした、禁欲的な生活であって、かれはこれをせんさいな
克己こっき復礼ふくれいを主眼とする孔子の教えも転迷てんめい開悟かいごを唱道する仏の教えも、神者愛也かみはあいなりと説くキリストの教えもみなこの目的に達するための種々の方便に過ぎぬ。
理想的団体生活 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
黄白こうはくに至りては精励せいれい克己こっきむくいとして来たるものは決して少なくなかろう。古人こじんの言にあるごとく
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そうして時がくるとずいぶん克己こっきして家を出ました。しかし子供が歯の悪いときには、きょうはおいしゃに行く日だと思っても、決して朝から苦になるほどではありませんでした。
親子の愛の完成 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
六十七になって寝られなくなるなあ当り前でさあ。修業も糸瓜へちまったものじゃないのに当人は全く克己こっきの力で成功したと思ってるんですからね。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
歩走ほそう飛伏ひふく、一進一退、陣法の節を教え、克己こっきの精神をたたき込み、刺撃しげき、用剣の術まで、習わせた。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
叡山人多しといえど誰か、十歳を出たばかりの範宴にすら勝る法師やある。——その才において、その克己こっきにおいて、その聡明において、その強情我慢なことにおいて。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一行の者に対しては、あえてムチを振るッて克己こっきさせ、時には夜立ちあかつき立ち。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「口舌を以ていたずらに民を叱るな。むしろ良風をおこしてふうならわせよ。風を興すもの師と吏にあり。吏と師にして善風を示さんか、克己こっきの範を垂れそのもと獺惰らんだの民と悪風を見ることなけん」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのあいだの彼のすさまじい修行の辛苦と克己こっきとはいうまでもない。彼の位置が、何不自由ない一城のあるじの身であるだけに、その苦しみは、自ら求めて苦しまなければ、けられない苦しみだった。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
懊悩おうのうのまま年は暮れたが、年もあらたまって、承平しょうへい二年の正月を迎えるとともに、将門は、翻然ほんぜんと考えた。それに似た誓いを独り胸にたたんだ。克己こっきである。馬鹿になろう、馬鹿になろう、である。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)