先方むかふ)” の例文
「さよか、先方むかふがそない言うてるのんやと——」鴈治郎の顔は見る/\相好さうがうが崩れた。「会うだけなら一遍会うても構やへんな。」
わたくし何氣なにげなく衣袋ポツケツトさぐつて、双眼鏡さうがんきやう取出とりいだし、あはせてほよくその甲板かんぱん工合ぐあひやうとする、丁度ちやうど此時このとき先方むかふふねでも、一個ひとり船員せんゐんらしいをとこ
すると学校をたての平岡でないから、先方むかふわからない、且つ都合のわるいことは成るべく云はない様にして置く。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その声でハツとして一郎が顔を上げると、もう先生はツカツカと先方むかふへ行つてしまつた。一郎はぼんやりと先生の後姿を見送つてから、今度は沁々と黒板の先生の顔を見た。
悦べる木の葉 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
どうせ飛び出すのだ、何しろ訪ねて見ようと銀之助は懐中くわいちゆうを改めると五円札が一枚とあと小銭こせんで五六十銭あるばかり。これでも仕方がない不足の分は先方むかふの様子を見てからの事とぐ下にりた。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
着物きものでも着換きかへて、此方こつちから平岡ひらをか宿やどたづね様かと思つてゐる所へ、折よく先方むかふからつてた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「でも、先方むかふが、一遍兄さんに会ひたい/\言うてまんのやぜ。」
そのあるものは、先方むかふでも眼鏡めがねさき此方こつちへ向けてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)