儕輩さいはい)” の例文
「十五歳の頃春琴の技大いに進みて儕輩さいはいぬきんで、同門の子弟にして実力春琴に比肩ひけんする者一人もなかりき」
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
教育者の権威に煩わされなくなった時代には儕輩さいはいの愛校心を嘲り学問研究の熱心を軽蔑した。そうして道徳と名のつくものを蔑視することに異常な興味を覚えた。
『偶像再興』序言 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
しばしば暴力沙汰を起して儕輩さいはいのあいだに畏怖と敬遠の的にされていた徳三宝との試合に勝ったということが、中野に対する人気を湧き立たせたのは当然であろう。
せめては骨肉相食あいはむような不幸な家庭、儕輩さいはい相※あいせめぐようなあさましい人間の寄り合いを尋ね歩いて、ちぐはぐな心の調律をして回るような人はないものであろうか。
備忘録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかしそこにも儕輩さいはいの嫉妬や彼の利益を失うまいとする彼自身の焦燥の念は絶えず彼を苦しめていた。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
儕輩さいはいの詩人皆多少憂愁の思想をそなへたれど、厭世観の理義彼に於ける如く整然たるはまれなり。衆人いたづらに虚無を讃す。彼は明かにその事実なるを示せり。その詩は智の詩なり。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
そして、英姫の侍女としての七瀬は、その儕輩さいはいよりも群を抜いていた。八郎太の妻としては、或いは過ぎたくらいの賢夫人であった。それだけに、今度のことの責任は重かった。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
仏頂面をして考え込む時の顔は、ちょっと人間離れのした怪奇な残忍さを呈する。儕輩さいはいの誰彼が恐れるのはこの顔だ。意識しないでも自然にこの二つの顔の使い分けが出来るらしい。
牛人 (新字新仮名) / 中島敦(著)
外交官にしては直情径行に過ぎ、議論の多い規矩男の父の春日越後は、自然上司や儕輩さいはいたちに好かれなかった。駐在の勤務国としてはあまり国際関係に重要でない国々へばかりまわされていた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼等かれらあひだには異分子いぶんしまじへてらぬ。彼等かれらときによつてはおそれて控目ひかへめにしつゝ身體からだ萎縮すくんだやうにつてほどものおくする習慣しふくわんがある。しかうして儕輩さいはいのみがあつまればほとんど別人べつじんである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)