何分なんぷん)” の例文
何分なんぷんのち、あの羽根をきずつけた山鳩は、ずまたそこへかえって来た。その時もう草の上の彼は、静な寝息を洩らしていた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何分なんぷんつた。突然とつぜん一人ひとり兵士へいしわたしからだひだりからたふれかかつた。わたしははつとしてひらいた。その瞬間しゆんかんわたしひだりほほなにかにやとほどげられた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
カンテラのじいと鳴るのも、足の底へ清水しみずが沁み込むのも、全く気がつかなかった。したがって何分なんぷんったのかとんと感じに乗らない。するとまた熱い涙が出て来た。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、何分なんぷんか過ぎ去ったのち、お蓮がふと気がついて見ると、薄暗い北向きの玄関には、いつのまに相手は帰ったのか、誰も人影が見えなかった。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして、そんなとき何時いつものくせで、Sのうたなんかを小聲こごゑうたした。何分なんぷんかがさうしてぎた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
そう云う何分なんぷんかが過ぎ去ったのち、女は仕事を続けながら、突然、しかし覚束おぼつかなさそうに、こう誰かへ声をかけた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それから、何分なんぷんかの後である。羅生門の樓の上へ出る、はゞの廣い梯子の中段に、一人の男が、ねこのやうに身をちゞめて、いきを殺しながら、上の容子ようすを窺つてゐた。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)