仕種しぐさ)” の例文
どんなに期待した驚きの仕種しぐさも、これほどまでには効果的でなかつたでせう。眼を大きく見張つて、唇の色までがサツと變つたのです。
首実検の時に手をふるわせながら、懐紙かいしを口にくわえる仕種しぐさなどをひどく細かく見せて、団十郎式に刀をぬきました。ここでも首は見せません。
米国の松王劇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼女はうぶな田舎娘のような仕種しぐさで長い袂を八つ口に挾み、また拍手をうけた。茂緒はそれを、何か芝居でもみるような気もちでながめていた。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
こんな仕種しぐさが、実際どこまで彼に通ずるものやら、たとい中では電波にいちばん自信が持てたにせよ、思えばずいぶん心もとない次第であった。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
竹を縦に細かく仕種しぐさ、裂いた竹を拡げて糸で編む手捌てさばき、凡ては目にも止まらぬほどの早業はやわざで、手がどんな奇蹟を行うかが目前に見られます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
この仕種しぐさは、彼と同居している若い友人、アンドレイ・セミョーヌイチ・レベジャートニコフの口辺に、ことばにこそ出さね皮肉な微笑を浮べさしたものである。
仕種しぐさを待構えていた、饂飩屋小僧は、これから、割前わりまえの相談でもありそうな処を、もどかしがって
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
下士官はピストルをがらりと投げすてると、首のところへ手をもってゆくような仕種しぐさをしたが、そのときはもう甲板の上に、仰向けになって倒れ、呼吸いきがたえていた。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼は両手をこめかみに当てて、みほぐすような仕種しぐさをした。痛みは三十秒程でおさまった。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
その娘はお前を見ると今日はを言ふ前にきつと何か意地の悪い仕種しぐさを見せるに相違ない。女は生れたときからもう腹黒いものだからな。ところが、そこが、男の気に入るといふわけだ。
朴水の婚礼 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
日本橋ヤ、鎧橋ヤ、築地橋ヤ、柳橋ノ、アノ綺麗ダッタ河ヲ、オ歯黒溝ノヨウニシチマッタノハミンナ奴等デハナイカ。隅田川ニ白魚ガ泳イデタ時代ノアルコトヲ知ラナイ奴等ノ仕種しぐさデハナイカ。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
秘書の秋田は大月の思索を邪魔しないつもりか、それとももうそんな仕種しぐさに飽きて了ったのか、証人の男を捕えて丘の周囲の景色を見ながら、その素晴しい見晴に就いて何か盛んに説明を聞き始めた。
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
団十郎の台詞せりふ仕種しぐさも今までわたしが鳥熊の芝居や鈍帳芝居で見馴れている善六とちっとも変わらなかった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
花やかともいえよう、ものに激した挙動ふるまいの、このしっとりした女房の人柄に似ないすばや仕種しぐさの思掛けなさを、辻町は怪しまず、さもありそうな事と思ったのは、お京の娘だからであった。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まったく板についた仕種しぐさでした。
Sの背中 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)