今戸焼いまどやき)” の例文
旧字:今戸燒
そこで、柳営をはじめ三家御三卿の式事につかう、すべての御用土器を製造して、幕府に納めたのである。つまり、今戸焼いまどやきの草分だ。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると寒月が「奥深く毛も見えずはいけますまいか」と各々おのおの出鱈目でたらめを並べていると、垣根に近く、往来で「今戸焼いまどやきたぬき今戸焼の狸」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこ此処ここに二、三軒今戸焼いまどやきを売る店にわずかな特徴を見るばかり、何処いずこの場末にもよくあるような低い人家つづきの横町よこちょうである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのほかの人形は——きょう伏見ふしみ奈良なら博多はかた伊勢いせ秋田あきた山形やまがたなど、どなたも御存知のものばかりで、例の今戸焼いまどやきもたくさんあります。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と云いながら障子を明けてうちへ通ると、六畳ばかりの狭い所に、真黒まっくろになった今戸焼いまどやきの火鉢の上に口のかけた土瓶どびんをかけ、茶碗が転がっている。
それからまるい顔にして、しかくい胴にしてさんかくに坐っている、今戸焼いまどやき姉様あねさんだと思えばそれでもうございます、はかま穿いた殿様だと思えばそれでもいでしょう。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
妻恋稲荷の前の茶店——昼は婆さんが一人今戸焼いまどやきの狸のように番人をしておりますが、日が暮れると自分の家へ引揚げて、茣蓙ござ毛氈もうせんいだままの縁台が、淋しく取残されているところに
そこ此処こゝに二三けん今戸焼いまどやきを売る店にわづかな特徴を見るばかり、何処いづこ場末ばすゑにもよくあるやうな低い人家じんかつゞきの横町よこちやうである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
主人はここにおいて落雲館事件を始めとして、今戸焼いまどやきたぬきから、ぴん助、きしゃごそのほかあらゆる不平を挙げて滔々とうとうと哲学者の前に述べ立てた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この辺に多い今戸焼いまどやき陶物すえものを焼く家、かやぶき屋根の壁の下に、雑多なかたちの素土すつちが干してならべてある。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怒るたんびに泣かせられるだけなら、まだ余裕もあるけれども、金田君が近所のゴロツキをやとって今戸焼いまどやきをきめ込むたびに、八っちゃんは泣かねばならんのである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)