人込ひとご)” の例文
梯子段はしごだんの二三段を一躍ひととびに駈上かけあがつて人込ひとごみの中に割込わりこむと、床板ゆかいたなゝめになつた低い屋根裏やねうら大向おほむかうは大きな船の底へでもりたやうな心持こゝろもち
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
私は白紙をクルクルと丸めると、着物のたもとに無造作に投げこんだ。そして嬉しさにワクワクする胸をおさえて、表玄関の人込ひとごみの中を首尾よく脱出したのだった。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたしは仕方なしに後方の人込ひとごみに揉まれて舞台を見ると、ふけおやまが歌をうたっていた。その女形おんながたは口の辺に火のついた紙捻こよりを二本刺し、側に一人の邏卒らそつが立っていた。
村芝居 (新字新仮名) / 魯迅(著)
まつろう親爺おやじせいしているすきに、徳太郎とくたろう姿すがたは、いつか人込ひとごみのなかえていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
わたしはつまらないけ事に昂奮する細君の顏や樣子を見てゐるのも氣辛きづらいし、湧き返るやうな場内一帶の騷しさにも堪へられなくなつて、そのまゝふらりと人込ひとごみにまぎれて門を出て
畦道 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)