人相にんそう)” の例文
「あの犬は中々利巧だったが、こいつはどうも莫迦ばからしいな。第一人相にんそうが、——人相じゃない。犬相けんそうだが、——犬相が甚だ平凡だよ。」
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それはおとうさんが、ときどき夜おそく、おさけによっぱらい、人相にんそうまで変わってかえってきて、一晩中おかあさんをいじめてなかすことでした。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
その頭はけがをしたため、少し右のかたのほうへ曲がっていた。かたわになったので、よけいこの男の人相にんそうを悪くした。
村瀬は、三十歳ぐらいの、やせた人相にんそうのよくない男でしたが、こんいな木村さんのおつかいだというので応接間にとおして、ていねいにもてなしました。
鉄塔の怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「わたしは人相にんそうることを学んだが、この子は行くゆく兵器で死ぬ相がある。刀剣は勿論もちろん、すべての刃物を持たせることを慎まなければなりませんぞ」
うろうろ徘徊はいかいしている人相にんそうの悪い車夫しゃふがちょっと風采みなり小綺麗こぎれいな通行人のあとうるさく付きまとって乗車をすすめている。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
人相にんそうのよくない一人の男が、ぶるぶるとふるえ、両手を合わせて、しきりにおがんでいる。拝まれているのは清君と一郎君——いや、例の二体の骸骨だった。
骸骨館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その蛾次郎はともかくも、卜斎の風体ふうてい人相にんそう、ひとくせありげに見えたので、伊部熊蔵いのべくまぞう雁六がんろくに目くばせをして
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ソコデ松崎と云う先生の人相にんそうを見て応対の様子を察するに、決して絶倫の才子でない。よって私の心中ひそか
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
成程なるほど清水しみずと云う男は、立派りっぱに色魔たるべき人相にんそうを具えているな。」と、つぶやくような声で云った。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ひじょうに狡猾こうかつで気むずかしく、はらぐろい人相にんそうのようでもあり、ばかに柔和にゅうわであたたかい相好そうごうのようにも見える。だから、その顔をくものは深くしたしみ、みきらうものはまたひどくきらう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)