二重廻にじゅうまわし)” の例文
る大名華族の屋敷の門長屋が詰所にあてられた。外套がいとうを着、襟巻えりまきをした彼は、和服に二重廻にじゅうまわしの隣人を引張って出かけた。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
しかし若い男や女が、二重廻にじゅうまわしやコートや手袋てぶくろ襟巻えりまきに身をよそおうことは、まだ許されていない時代である。
雪の日 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それが絹ハンケチを首に巻いて二重廻にじゅうまわしの下から大島紬おおしまつむぎの羽織を見せ、いやに香水をにおわせながら
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「先生だろう。」と駒田はふすまの方を見返りながら、少し席を譲る間もなく、梯子段はしごだん跫音あしおとがして、パナマ帽を片手に、ねずみセルの二重廻にじゅうまわしを着たまま上って来たのは、清岡進である。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
コートのひもを解きながら二階へ上ると、重吉も今しがた帰って来たばかりと見えて、帽子と二重廻にじゅうまわしとは壁に掛けてあったが、襟巻えりまきも取らず蹲踞しゃがんで火鉢の消えかかった火を吹いていた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
帽子も二重廻にじゅうまわし背恰好せかっこうも後から見るとまるで同じなんだけれど、違った人なのさ。わたし、あんまり気まりがわるいんで、失礼とも何とも言えないで、真赤まっかになってただ辞儀じぎをしたわ。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二重廻にじゅうまわしの間から毛むくじゃらの太い腕を出してお千代を引寄せて頬摺ほおずりをした。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
兼太郎は炬燵こたつに火を入れて寝てしまおうかと思ったが今朝は正午ひる近くまで寝飽ねあきたまぶたの閉じられようはずもないので、古ぼけた二重廻にじゅうまわし引掛ひっかけてぷいと外へ出てしまった。もとより行くべき処もない。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
薄髯うすひげ二重廻にじゅうまわし殊勝しゅしょうらしく席を譲った。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)