不拘かかわらず)” の例文
凡て犯罪の証拠があるにも不拘かかわらず、彼は、犯行の事実を全くおぼえがないと否認した。即ち無意識行為であるという主張をやった。
尤もそれは今はじめてのことではなく、大助がなにかしら他人のために尽そうとする場合、きまって(そこに秀之進がいるといないに不拘かかわらず
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「私の一家と、秀岡とは姻戚関係にあるのですが、それにも不拘かかわらず私の一家は秀岡の悪辣な手にかかって破産せられ、非常にみじめな目に陥入れられたのです」
旅客機事件 (新字新仮名) / 大庭武年(著)
一五九〇年の聖書は、ブルガータと呼ぶもので、これは法皇シキスト五世の監輯かんしゅうにかかるものであるが、法王自ら校正したにも不拘かかわらず、非常に誤植が多かった。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
が、それにも不拘かかわらず大月は、もう一度秋田を吃驚びっくりさせる様な不審な態度に出た。全く、それは奇妙な事だった。
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「………何分この頃は物価高く、二三年前とは驚くほどの相違にて、さしたる贅沢ぜいたくを致さざるにも不拘かかわらず、月々の経費に追われ、都会生活もなかなか容易に無之これなく、………」
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
然し多少に不拘かかわらずこれ等の配分方法について醜い紛議等が生ずるのは不本位千万だから、矢張り隣人座談会へ常々出席の諸君の評議によって裁断して貰うのがよろしいと思う
生前身後の事 (新字新仮名) / 中里介山(著)
つづいて八人の同志となってしまったにも不拘かかわらず、この八人で頑張って漸次紙数も増し、探偵小説の同人雑誌としては奇蹟的に平穏な好調のうちに第二巻第十二号まで続けて来たのであった。
休刊的終刊:シュピオ小史 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
然るに公家くげ一味の者の外は、空しく恩賞の不公正を恨み、本国に帰って行く。かかる際にも不拘かかわらず、大内裏の造営は企劃され、諸国の地頭に二十分の一の得分をその費用として割当てて居る。
四条畷の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
……其方共儀そのほうどもぎ一途いちずニ御為ヲ存ジ可訴出うったえいずべく候ワバ、疑敷うたがわしく心附候おもむき虚実きょじつ不拘かかわらず見聞けんぶんおよビ候とおり有体ありてい訴出うったえいずベキ所、上モナクおそれ多キ儀ヲ、厚ク相聞あいきこエ候様取拵申立とりこしらえもうしたて候儀ハ、すべテ公儀ヲはばかラザル致方
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
最近戦争の危機がせまっていると見えて、官営の軍器工場では、この不況にも不拘かかわらず、こっそり人をふやしてるらしい。M市のS工場などは三千のところが、五千人になっているそうだ。この場合だ。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
大寺は素直に捕えられたにも不拘かかわらず、警察に行ってから一言も口を開きません。たしか二日間位全く一言も云わなかったのです。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
加害者は白っぽい水色の服を着た小柄な男である事。しかも兇行の現場を被害者の夫人と他にもう二人の証人が目撃していたにも不拘かかわらずいまだに犯人は逮捕されない事。
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
また二十二日の昼間徳田秋声先生(今は先生と云わねばならぬ)を訪ね、原稿のこと、勤口のことなど、浅い馴染なじみにも不拘かかわらず頼んでみた、大変親切にしてくれた。感謝している。
あの時の公事は私がほんとの母であったにも不拘かかわらず、私の負となりました。私はその愚痴は申しませぬ。ただあれから後の事を申し上げたいのです。
殺された天一坊 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
が、それにも不拘かかわらず、夫人の指間に盛上って来るあの乳白色の果肉の上には、現場で発見したものと全く同じ様な左巻の皮が嘲ける様にとぐろを巻いているじゃないか。僕は内心ギクリとした。
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
犯罪史をひもといて、犯罪の暴露の経過を見ると、犯人にとって最も危険なのは彼自身の良心です。彼等は勇敢に犯行をなすに不拘かかわらず、犯行後極めて臆病です。
悪魔の弟子 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
夏の最中に、春一は山か海に出かけることと信じていましたが、世間をはばかった故か、一家の者がI温泉に出かけたにも不拘かかわらず、彼はどこへも出かけませんでした。
死者の権利 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
彼の室から約五百円の紙幣が発見されたにも不拘かかわらず、その出所を明かにする事が出来なかった。
正義 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
それにも不拘かかわらず、彼女は之等の噂を全く聞かぬものの如く振舞って居ました。彼女にもまして、此の事に冷淡であったのは——少くも冷淡に見えたのは夫の清三でありました。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
所ガ私ガアレダケホントウノ事ヲ告白シタノニ不拘かかわらず清三ハ全ク耳ニモ入レマセンデシタ。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
脅迫状を出したに不拘かかわらず、会見した時脅迫的文句をいわぬということがどうしていえるかと反対し、結論として、もし小夜子に金の談判をする気がなかったなら、そもそも何がためにあの夜
死者の権利 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
おまけに、あんなに完全にやったにも不拘かかわらず、私は毎日刑事に追いかけられているような気がしてるんだ。ひろ子の、あの小さなひろ子の手が土の中から出て、私をさしているような気がするんだ。
途上の犯人 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)