上布じょうふ)” の例文
ですから、客は上布じょうふの着物を着ていても釣ることが出来ます訳で、まことに綺麗事きれいごとに殿様らしくっていられる釣です。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
上布じょうふ帷子かたびら兵子帯へこおびという若い男が入って来て、「例のは九円には売れまいか」というと、店員は「どうしてどうして」とかしらって、指を三本出す。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
めずらしく上布じょうふか何かの和服すがたで、父が「ひで。散歩に行こう」とぼくを連れ出した。伊勢佐木町の通りを、涼み姿の人影に交じって少しあるいた。
丈夫じょうぶに織りあげる必要もあったくらいで、ただ朝廷ちょうていへのみつぎもの、または領主への年々の献上品けんじょうひんだけが、上布じょうふといって、精巧な布でなければならなかったのだが
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ちぢみでは十日町とおかまちの「明石縮あかしちぢみ」もありますが、小千谷の上布じょうふくはありません。江戸時代この方実に見事な仕事を見せました。塩沢しおざわが今はかえって中心であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「あんたはんに見てもらいまよか」といって、衣装戸棚の中からいろんな衣類をそこへ取りひろげて見せたりした。大島紬おおしまつむぎそろった物やお召や夏の上布じょうふの好いものなどを数々持っていた。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
一枚は上布じょうふ、一枚は鳴海絞なるみしぼり、どちらも新しいし、安い品ではないようである。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
姉よりも地味な好みの、たった一枚持っている上布じょうふの着物に、あわい色ばかりの縞の博多帯で、やや下目にキリリと胴を締めて、雨よけのお召のコートを着て、新子は十一時、四谷の家を出た。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「やあ、此方こっちへ」と席を勧めたのが代助にはようようであった。誠吾は席に着くや否や、扇子を出して、上布じょうふの襟を開く様に、風を送った。この暑さに脂肪が焼けて苦しいと見えて、荒い息遣をした。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
我々は麻布といえば一反いったん二十円もするような上布じょうふのことをしか思い浮かべないが、貢物みつぎものや商品になったのはそういう上布であっても、東北などの冬の不断着ふだんぎは始めから
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
能登といえば鹿島かしま能登部のとべ村の上布じょうふが有名であります。世に「能登上布のとじょうふ」というのはこれであります。ごく細かい麻糸の織物で、夏の着物に悦ばれます。ひんのよい織物であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「と云って、ここじゃわるいし。応接室へ、煽風器をかけて、冷たいものを差し上げて……」おのずから弾む口調で、命じると、浴衣ではわるいと思い、さっき脱いだ黒い上布じょうふに着かえ、応接室へ急いだ。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)