一切いっせつ)” の例文
もとより両親のことばではあるし、自分でも強いて淋しい生活に入るのを望むわけでもないから、一切いっせつ両親にまかすことにしたのがそもそも娘の不運のもとであった。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
日本一の不所存もの、恩地源三郎が申渡す、向後一切いっせつ、謡を口にすること罷成まかりならん。立処たちどころに勘当だ。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それでは貴様あなたは宇宙に神秘なしと言うおかんがえなのです、要之つまり、貴様にはこの宇宙に寄する此人生の意義が、極く平易明亮めいりょうなので、貴様の頭は二々ににんで、一切いっせつが間に合うのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
これ/\昔馴染とはなんの事だ、屋敷にいる時は手前の親を引立ひきたってやった事はあるが、恩を受けたことは少しもない、それを昔馴染などとはもってほかのことだ、一切いっせつ出来ません
本は一切いっせつ片附けて枕許まくらもとには何も置かずにとこに入った、ところが、やがて昨晩ゆうべと、ほとんど同じくらいな刻限になると、今度は突然胸元が重苦しくされるようになったので、不図ふとまた眼を開けて見ると
女の膝 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
老人もまた人が通ろうと犬が過ぎ行こうと一切いっせつおかまいなし、悠々ゆうゆう行路の人、縁なくんば眼前千里、ただ静かな穏やかな青空がいつもいつも平等におおうているばかりである。
二老人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
親たる父にだ孝の道もつくさずして先だつ不孝は幾重いくえにも済まぬがわたしは一刻も早くこの苦しい憂世うきよを去りたい、わたしの死せるのちはあの夫は、あんな人だから死後の事など何も一切いっせつかまわぬ事でしょう
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
それッきり、危うございますから、刃物は一切いっせつ厳禁にしたんです。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真蔵は衣食台所元のことなど一切いっせつ関係しないから何も知らないのである。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)