みづか)” の例文
然れども吾人、あに偏狭みづから甘んぜんや、凡そ道義を唱へ、正心せいしんを尊ぶもの、釈にも儒にもあれ、吾人いづくんぞ喜んで袂を連ねざらんや。
「平和」発行之辞 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
教へたといふことである。これはもし事実とすれば驚くべきことに違ひない。なぜと云へば、日本人はみづから音楽を解しないのだから。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ときかね校庭かうていやしなはれて、嚮導きやうだうつたいぬの、ぢてみづかころしたともひ、しからずとふのが——こゝにあらはれたのでありました。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
たゞさへ神仙しんせん遊樂ゆうらくきやうこと私共わたくしどもは、極端きよくたんなる苦境くきやうから、この極端きよくたんなる樂境らくきやう上陸じやうりくしたこととて、はじめはみづかゆめでないかとうたがはるゝばかり。
常に婦人を堕落させる者は婦人みづからで無くて、男子の不道徳に原因すると信じて居る自分は、同じく巴里パリイの遊里を盛大ならしめる者は
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「それでもまきつてわけにもかねえからいてつちやつた」勘次かんじみづかあざけるやうにからくちけてつめたいわらひうごいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
きじき竜戦ふ、みづからおもへらく杜撰なりと。則ち之を摘読てきどくする者は、もとよりまさに信と謂はざるべきなり。あに醜脣平鼻しうしんへいびむくいを求むべけんや。
東京とうきやうてから、自分じぶんおもひつゝもみづかかなくなり、たゞ都會とくわい大家たいか名作めいさくて、わづか自分じぶん畫心ゑごころ滿足まんぞくさしてたのである。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「うん。もっともぢゃ。なれども他人は恨むものではないぞよ。みなみづからがもとなのぢゃ。恨みの心は修羅しゅらとなる。かけても他人は恨むでない。」
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
万法蔵院の香殿・講堂・塔婆・楼閣・山門・僧房・庫裡、悉く、金に、朱に、青に、昼よりいちじるく見え、みづから光りを発して居た。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
こゝに於てわれみづから名づくるに来青花らいせいかの三字を以てしたり。五月薫風簾をうごかし、門外しきりに苗売の声も長閑のどかによび行くあり。
来青花 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そして別にさううまくならなくても、みづから楽しみ得さへすれば、社交ダンスの目的は終るのだから、それだけでもいゝのだ。
私の社交ダンス (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
みづか其斷そのだんゆうとせば、すなは(八七)其敵そのてきもつこれいからすかれ。みづか其力そのちからとせば、すなは(八八)其難そのなんもつこれ(八九)がいするかれ。
ひと交際かうさいすることかれいたつてこのんでゐたが、其神經質そのしんけいしつな、刺激しげきされやす性質せいしつなるがゆゑに、みづかつとめてたれとも交際かうさいせず、したがつまた親友しんいうをもたぬ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あいちやんはみづかおもふやう、『何時いつはなへるんだかわたしにはわからないわ、はなはじめもしないでてさ』しかあいちやんは我慢がまんしてつてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
私は冷く静かな心になつて居ると思つて居ながら、あなたの苦痛のためにはこれ程の悲しみを感じるのかとみづから呆れます。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そこからでてきたのだ、譬へばおやへびの臍を噛みやぶつてみづから生れてきたのだと自分の友のいふその蝮の子のやうに。
痴人ちじんゆめく、されどゆめみづかさとるはかならずしも痴人ちじんにあらざるし。現今げんこんおいても、未來みらいおいても、七福しちふくきたきをしんずるあたはず。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
さうしてきん解禁かいきん決行けつかうせんとするには政府せいふみづからの行動かうどうのみにては不充分ふじうぶんであつて、戰後せんご日本にほん經濟けいざい變化へんくわした状態じやうたい
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
みづかとうじ、みづかくわり、みづか其破片そのはへんをツギあはせて、しかうへ研究けんきうみづからもし、きたつて研究けんきうする材料ざいれうにもきやうするにあらざれば——駄目だめだ。
「皆死んだよ。城中の男女數百人をやぐらに置いてみづから火をかけ、黨類三十餘人はちうせられて首を京師に送つた——とある」
吾人ごじん日常にちぜう英國えいこくを、「イギリス」、獨國どくこくを「ドイツ」とぶが、英獨人えいどくじん吾人ごじんたいしてみづかしかばないではないか。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
けれどもみづから其場に臨んで見ると、ひるむ気は少しもなかつた。ひるんで猶予する方が彼に取つては幾倍の苦痛であつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
斯樣かやうにしてみづか遠慮ゑんりよをし、また自分じぶんから抑制よくせいをして共同生活きやうどうせいくわつ妨害ばうがいにならぬやうにと注意ちゆういをしてるのである。すなは放任主義はうにんしゆぎ神髓しんずゐとするところであります。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
若しも智恵子が、渠のかつて逢つた様な近づき易き世の常の女であつたなら、渠は直ぐに強い軽侮の念を誘ひ起して、みづから此不安から脱れたかも知れぬ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
此人そつはなるゆゑみづか双坡楼そつはろう家号いへなす、その滑稽こつけい此一をもつて知るべし。飄逸へういつ洒落しやらくにしてよく人にあいせらる、家の前後にさかありとぞ、双坡そつはくだて妙なり。
そろひの浴衣ゆかたはでものこと、銘々めい/\申合まをしあわせて生意氣なまいきのありたけ、かばきももつぶれぬべし、横町組よこてうぐみみづからゆるしたる亂暴らんぼう子供大將こどもたいしやうかしらちやうとてとしも十六
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其他知らざる所の理固より多し。其みづから知の至らざるを以て之を理外と、之を事實に合せざる者なりと言ふは、是理の至らざるに非らずして、我の至らざるなり。
尚白箚記 (旧字旧仮名) / 西周(著)
さうしてこれはただ人事ひとごとではないのでした。私達わたしたちはよくみづかかへりみ、自らよく考へなければなりませぬ。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
チッバルトをころしたうへに、おのがをもころさうとや? みづか墮地獄だぢごくつみをかして、そなたゆゑにこそきてゐやるあのひめをもころさうとや? なんそなた出生しゅっしゃうのろひ、てん
この已来このかた秋稼しうかに至り風雨ついでしたがひて五穀豊かにみのれり。此れすなはち誠をあらはし願をひらくこと、霊貺りやうきやう答ふるが如し。すなはおそれ、載ち惶れて以てみづかやすみするとき無し。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
吾人の見る所によれば、道徳と知識とは、其物みづからに於て多く獨立の價値を有するものに非ず。其の用は吾人が本能の發動を調攝し、其の滿足の持續を助成する所に存す。
美的生活を論ず (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
わが心、何を求め何に憧るるや、われみづからもわき難きを、われ自らにあらぬ人の父母ちゝはゝなりとていかで知り得ん。我が父母はただ只管に限り無くわれをでいつくしみ給ひき。
い、好い、全く好い! 馬士まごにも衣裳いしようふけれど、うつくしいのは衣裳には及ばんね。物それみづからが美いのだもの、着物などはどうでもい、実は何も着てをらんでも可い」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
二、 非常ひじよう地震ぢしんたるをさとるものはみづか屋外おくがい避難ひなんせんとつとめるであらう。數秒間すうびようかん廣場ひろばられる見込みこみがあらば機敏きびんすがよい。たゞもと用心ようじんわすれざること。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
而も其のうかゝツたところは、かれみづか神來しんらいひゝきと信じてゐたので、描かぬ前の彼の元氣と内心の誇と愉快ゆくわいと謂ツたら無かツた。彼の頭に描かれた作品は確に立派りつぱなものであツたのだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
広い世間には、かうしてみづから殺すものが何人あるかわからない。現に今でも、かうして寂然じやくねんとしてかれが坐つてゐる間にも、さういふ悲劇が何処かで繰返されてゐるかも知れない。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
私は今日こんにちまでの中途半端な生活を根からくつがへして、遠からず新規なものを始めたいと思ふ。私は他人に依つて衣食する腰掛の人間でなくて、みづから額に汗する労働者でなければ成らない。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
我はみづから面のくが如く目の血走りたるを覺えて、きれ鹹水しほみづひたして額の上に加へ、又水をわたり來る汐風しほかぜすこしをも失はじと、衣のボタン鬆開しようかいせり。されど到る處皆火なるを奈何いかにせん。
彼はかういふ事を探り出すことが實に上手で、又それをみづから得意としてゐる。自分と交際のある凡ての人間に就いて、彼は、一々興信所的な方法で身許調査を行つてゐるもののやうだ。
かめれおん日記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
今日けふ郡司大尉ぐんじたいゐ短艇遠征たんていゑんせいかうを送るに、ねて此壮図このさうと随行ずゐかうして其景況そのけいきやうならびに千島ちしま模様もやうくはしくさぐりて、世間せけん報道はうだうせんとてみづから進みて、雪浪萬重せつらうばんちよう北洋ほくやう職務しよくむためにものともせぬ
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
この無頓著むとんちやくひとと、みちもとめるひととの中間ちゆうかんに、みちふものゝ存在そんざい客觀的かくくわんてきみとめてゐて、それにたいしてまつた無頓著むとんちやくだとふわけでもなく、さればとつてみづかすゝんでみちもとめるでもなく
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
Lipps の自己投入の説では無いけれども、見物さへもみづから海に入つた時のやうな筋肉の緊張を覺えて、隨つて、御船を待つ心は愈〻切になる。御輿の魂は六百の見物に乘り移つたのである。
海郷風物記 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
みづからの解放かいほうに正しいみちえらび、ける銃架じうかたることとゞめるであらう
「我は仕へず」といふ姿して、みづからの心を堅め得るものあらむや。
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
そでるるこひぢとかつは知りながらり立つ田子のみづからぞ
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「眠つた海」「無用な行爲」などがみづから選んだ課題であつた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
日もすがら朽葉くちばする湯をあみて心しづめむみづからのため
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
大君おほきみは天の譴怒いかりみづから照らす御光みかげしみたまへり
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
今朝はもはや私がくだらない奴だと、みづから信ずる!
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)