)” の例文
旧字:滿
月は一庭のじゆらし、樹は一庭の影を落し、影と光と黒白こくびやく斑々はん/\としてにはつ。えんおほいなるかへでの如き影あり、金剛纂やつでの落せるなり。
良夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
けれど、そのときの自然しぜんと、いまの自然しぜんとどこにちがいがあろう。そうおもってふりくと、花壇かだんには平和へいわひかりちていました。
黒いちょうとお母さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
そらにあるつきちたりけたりするたびに、それと呼吸こきゅうわせるような、奇蹟きせきでない奇蹟きせきは、まだ袖子そでこにはよくみこめなかった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「おれにそんな事ができるものか」と兄は一口ひとくちしりぞけた。兄の腹の中には、世の中でこれから仕事をしようという気がちていた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これを、覚然の出たらめでないとすれば、それから後、忠盛の家で、つきたずに産まれた子は、だれの子とするのが正しいか——となる。
鼠は浜に引上げられて皆ちりぢりにげうせ、島にはそれ以来鼠ち満ちて畠の物をい失い、耕作ができなくなったという話。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「不二夫君、わかったよ。わかったよ。これは海の水なんだ。海がしおになって、岩のすきまから流れこんできたのだよ。」
大金塊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あるいはまた、「煬帝春游古城在。壊宮芳草満人家。〔煬帝ようだい春游しゅんゆうせる古城こじょうり。壊宮かいきゅう芳草ほうそう 人家じんかつ。〕」
かくのごとき恩愛おんあいは人の眼をしのんで、世にあまたあると信ずる。いな、あまたどころではない、かくのごとき情愛は空中にちていると思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そのときすでにそれは水嵩みずかさをはじめており、その水を浄めて今見るような色あいを帯び、地上における唯一のウォールデン池たること
ドストエフスキイの小説はあらゆる戯画にちている。もっともその又戯画の大半は悪魔をも憂鬱ゆううつにするに違いない。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして見たところなんの醜悪しゅうあくなところは一点もこれなく、まったく美点にちている。まず花弁かべんの色がわが眼をきつける、花香かこうがわが鼻をつ。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
すなわち私はその女の生涯をたびたび考えてみますに、実に日本の武士のような生涯であります。彼女は実に義侠心にちておった女であります。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
大川のの潮がひたひたと窓近く感じられる河沿いの家を、私の心はしきりに望んで来るのであった。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
長い春の夜もやがて明けて華やかな朝陽あさひが谿谷の国の隅々すみずみ隈々くまぐまにまで射し入って夜鳥のしめやかな啼き声に代わって暁の鳥の勇ましい声が空と地上にち満ちた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
瞬間しゅんかん、絶望的なものがしおのように押しよせてきたが、昔のままの教室に、昔どおりにつくえ椅子いすを窓べりにおき、外を見ているうちに、背骨せぼねはしゃんとしてきた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
かれまへには、一座いちざなめらかな盤石ばんじやくの、いろみどりあをまじへて、あだか千尋せんじんふちそこしづんだたひらかないはを、太陽いろしろいまで、かすみちた、一塵いちぢんにごりもない蒼空あをぞら
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それでついわたしの好奇心こうきしんたすことなしに、この町を去ろうとしていたとき、ひょんな事情じじょうから、わたしは坑夫こうふのさらされているあらゆる危険きけんを知るようになった。
おもき物いみも既にてぬ。絶えて兄長このかみおもてを見ず。なつかしさに、かつ此の月頃のおそろしさを心のかぎりいひなぐさまん。ねぶりさまし給へ。我もの方に出でんといふ。
しほてば水沫みなわうか細砂まなごにもわれけるかひはなずて 〔巻十一・二七三四〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
自然しぜん風景ふうけいうつすほかは、画帳がちょうことごとく、裸婦らふぞうたされているというかわようだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
こんな天気のいゝ時だとおもおこそろは、小生せうせいのいさゝかたぬことあれば、いつも綾瀬あやせ土手どてまゐりて、ける草の上にはて寝転ねころびながら、青きは動かず白きはとゞまらぬ雲をながめて
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
丘にたちしみじみ夕日あびにつつらふまでなきにけるかな
小熊秀雄全集-01:短歌集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
さなり やがてまた野いばらは野に咲きたむ。
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
たんと、薬と、涙とにてり。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
希望けもう熱情こゝろろふ
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あわれなくろねこは、ひもじいはらたすことができないので、かなしい、うらめしいこえをあげて深夜しんやゆきうえをうろついたのでした。
おばあさんと黒ねこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
黒島では野山の奥までも鼠がちて、青いものは一葉もなくなり、人の食物としてはいもつるさえ残らなかったという話で
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「ひんがしの、空の曠野ひろのを、ながむれば——むらさきの、雲はたなびき——春野の駒か、霞むは旗か、つわものばらの、つところ……」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
アストンにしても、黒住くろずみにしても、その説くところ間違いなきをし難いが、我が固有こゆうの教えは知恩ちおんの念にてるものなりとの一条はあやまちなしと信ずる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
いはのあたりは、二種ふたいろはなうづむばかりちてる……其等それらいろある陽炎かげらふの、いづれにもまらぬをんな風情ふぜいしたなかに、たゞ一人いちにんこまやかにゆきつかねたやうな美女たをやめがあつて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかもあのクレオパトラは豪奢ごうしゃと神秘とにちたエジプトの最後の女王ではないか? 香の煙の立ち昇る中に、冠の珠玉でも光らせながら、はすの花か何かもてあそんでいれば
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
人形共にちたこの場内では、動かぬ人は、人形と誤られることが屡々しばしばであったからだ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
英虞あごうら船乗ふなのりすらむをとめ珠裳たまもすそしほつらむか 〔巻一・四〇〕 柿本人麿
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
波紋はもん次第しだいおおきくびたささやかななみを、小枝こえださきでかきせながら、じっとみずおも見詰みつめていたのは、四十五のとしよりは十ねんわかえる、五しゃくたない小作こづくりの春信はるのぶであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
かれは又三千代をたづねた。三千代は前日ぜんじつの如くしづかいてゐた。微笑ほゝえみ光輝かゞやきとにちてゐた。春風はるかぜはゆたかに彼女かのをんなまゆを吹いた。代助は三千代がおのれを挙げて自分に信頼してゐる事を知つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
たびたびわたしはアーサが寝台ねだいゆわえつけられて、青い顔をしてねむっているところを見ると、わたしはかれをうらやんだ。健康けんこうと元気にちたわたしが、かえって病人の子どもをうらやんだ。
あまり単調で気がくるおう(⁉)そして日本の桜花の層が、ほどよく、ほどほどにあしらう春のなま温い風手かざては、いたずらに人のおもてにうちつけに触りみだれよう。桜よ、咲け咲け、うるさいまでに咲きてよ。
病房にたわむ花 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
柳絮飛時花満城 柳絮りゅうじょの飛ぶ時 はな しろ
十九の秋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
燦爛さんらんとして聖天そら
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あちらのみねほうへ、早起はやおきする小鳥ことりたちのこえきつけて、これをらえてえをたすために、んでいってしまったあとです。
美しく生まれたばかりに (新字新仮名) / 小川未明(著)
「木曾、北陸の怖ろしげな猪武者ししむしゃの大軍が、もう叡山を占領し、大津山科やましなにもちて、今にも洛中へ攻め入って来よう」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は友人とかたをたたいて談笑しつつ去ったが、おそらく彼の脳髄のうずいはただ試験の答案をもってのみたされて、母の苦心に考えを向ける余地はなかったろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
近代の遊蕩ゆうとう文学の中には、酒に取持たれ歌に心を動かされて、測らぬ因縁の結ばれた物語はちている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
がなしみさ鎌倉かまくら美奈みな瀬河せがはしほつなむか 〔巻十四・三三六六〕 東歌
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
黒雲くろくもかついだごとく、うし上口あがりくちれたのをあふいで、うへだんうへだんと、両手りやうてさきけながら、あはたゞしく駆上かけあがつた。……つきくらかつた、矢間やざまそともり下闇したやみこけちてた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おのづから蔭影かげこそやどれ咲きてる桜花さくらの層のこのもかのもに
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
空中は前後左右に飛びかう無数の火取虫にちている。
誘惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
つねめてつねちぬ。
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「まだ僕の白昼の夢でしかないからだ。それに、あんまり恐ろしい事柄だ。先ずゆっくり考えて見よう。材料は豊富に揃っている。この事件には、奇怪な事実がちている。が、表面奇怪な丈けに、その裏にひそんでいる真理は、存外単純かも知れない」
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)