横手よこて)” の例文
横手よこて桟敷裏さじきうらからなゝめ引幕ひきまく一方いつぱうにさし込む夕陽ゆふひの光が、の進み入る道筋みちすぢだけ、空中にたゞよちり煙草たばこけむりをばあり/\と眼に見せる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
おつたはやゝ褐色ちやいろめた毛繻子けじゆす洋傘かうもりかたけたまゝ其處そこらにこぼれた蕎麥そば種子まぬやう注意ちういしつゝ勘次かんじ横手よこてどまつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
……おかあさんたちも、ひとりのこらずその横手よこてに立っていて、さめざめとなみだを流しながら、めいめい自分のむす子やむすめを、目でさぐりあてる。
宗助そうすけしもんで、この記念きねんおほ横手よこてときかれ細長ほそなが路次ろじ一點いつてんちた。さうしてかれかよはないさむさのなかにはたとまつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いろも……うすいながら、判然はつきりすゝなかに、ちりはらつてくつきりと鮮麗あざやか姿すがたが、二人ふたりつくゑむかつた横手よこて疊數たゝみかずでふばかりへだてたところに、さむなれば
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ちいちゃんは、ぼうやをつれて、教会堂きょうかいどう横手よこてほうへいきました。そこには、さくらがあって、はないていました。こしかけや、すべりだいなどがありました。
鳥鳴く朝のちい子ちゃん (新字新仮名) / 小川未明(著)
それから横手よこてさかはうかゝつてると、るわ/\、打石斧だせきふが、宛然ちやうど砂利じやりいたやう散布さんぷしてる。
巴且杏はたんきやう時分じぶんには、おうちうらのお稻荷いなりさまの横手よこてにあるふるにも、あの密集かたまつてりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
家の横手よこてをお宮の方へ登って行く、上阪という細逕ほそみちがあって、それを隔てたすぐ西隣の田のへりに、この記念すべき植物が、毎年三、四かぶ自生していたのである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
見て此品は一昨夜我等方へ盜賊たうぞくしのびいつぬすまれし娘がかんざしなり如何して手に入しやと問ければ與兵衞大に肝を潰し彼旅籠屋の客人きやくじんよりかひたりと答ふるに利兵衞はた横手よこて
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さてこの世辞屋せじや角店かどみせにして横手よこてはう板塀いたべいいたし、赤松あかまつのヒヨロに紅葉もみぢ植込うゑこみ、石燈籠いしどうろうあたまが少し見えるとこしらへにして、其此方そのこなた暖簾のれんこれくゞつてなか這入はいると
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
そっと居間へ帰って、いくらかのお鳥目ちょうもくを帯のあいだへはさむがはやいか、庭下駄のまま植えこみをぬって、ひそかに横手よこてのくぐりから、夜更けの妻恋坂を立ちいでました。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこでとうとうわたくしから指導役しどうやくのおじいさんにおはなしすると、意外いがいにも産土うぶすな神様かみさまほうではすでにその手筈てはずととのってり、神社じんじゃ横手よこて小屋こや立派りっぱ出来できるとのことでございました。
もうそして天の川は汽車のすぐ横手よこてをいままでよほどはげしくながれて来たらしく、ときどきちらちら光ってながれているのでした。うすあかい河原かわらなでしこの花があちこちいていました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
横手よこての市日などに山と積んで売っている「通草籠あけびかご」は、その地方の誰でもが背負うものでありますが、形になかなか力があります。また竹で編んだ大きな籠に「よこだら」と呼ぶものがあります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
矢張草葺だが、さすがに家内何処となくうるおうて、屋根裏には一ぱい玉蜀黍をつり、土間には寒中蔬菜そさいかこあなぐらを設け、農具のうぐ漁具ぎょぐ雪中用具せっちゅうようぐそれ/″\ならべて、横手よこての馬小屋には馬が高くいなないて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
むすめにも同氣どうきもとむる番頭ばんとう勘藏かんざうにのみわつかせば横手よこて
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
素早すばや横手よこて小路こみちをどらせた
かれすこしばかりあましてあつたたくはへからむしくひでもなんでもはしらになるやら粟幹あはがらやらをもとめて、いへ横手よこてちひさな二けんはうぐらゐ掘立小屋ほつたてごやてる計畫けいくわくをした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
堀割ほりわりづたひに曳舟通ひきふねどほりからぐさま左へまがると、土地のものでなければ行先ゆくさきわからないほど迂囘うくわいした小径こみち三囲稲荷みめぐりいなり横手よこてめぐつて土手どてへと通じてゐる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ついてまがると、眞晝間まつぴるままくおとした、舞臺ぶたい横手よこてのやうな、ずらりとみせつきのながい、ひろ平屋ひらやが、名代なだい團子屋だんごやたゞ御酒肴おんさけさかなとも油障子あぶらしやうじしるしてある。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あの土藏どざう横手よこて石垣いしがきあひだには、土藏どざうばんをするとしとつたへびて、いまでも居眠ゐねむりをしてます。私達わたしたちはみんなおまへさんのお友達ともだちです。私達わたしたちをよくおぼえてくださいよ。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
最後さいごに、偶然ぐうぜんにも、それは鶴見驛つるみえきから線路せんろして、少許すこしつた畑中はたなかの、紺屋こうや横手よこて畑中はたなかから掘出ほりだしつゝあるのを見出みいだした。普通ふつう貝塚かひづかなどのるべき個所かしよではない、きはめて低地ていちだ。
あらをりに見染て箇樣々々かやう/\息子せがれが寢言兩親がことより自己おのれが來りたれどたゞ一向ひとむきにも言入かね實は斯々かく/\はからひて御懇意ごこんいになり此話しを言出したりといと事實じじつを明してのべたるに主個あるじはた横手よこて
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
秋田県に入ると、平鹿郡ひらかぐん横手よこての町のネブリ流しがまず有名である。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
湯気ゆげなかに、ビール、正宗まさむねびんの、たなひたならんだのが、むら/\とえたり、えたりする。……横手よこて油障子あぶらしやうじに、御酒おんさけ蕎麦そば饂飩うどんまれた……
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
荒町あらまち、みつや、横手よこて、中のかや、岩田いわたとうげなどの部落がそれだ。そこの宿はずれではたぬき膏薬こうやくを売る。名物くりこわめしの看板を軒に掛けて、往来の客を待つ御休処おやすみどころもある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
巡査じゆんさはぶらりといへ横手よこてつて壁際かべぎはた。勘次かんじ巡査じゆんさあとからいてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
四日目の朝いつものやうに七時前にうちを出て観音くわんおん境内けいだいまで歩いて来たが、長吉ちやうきちはまるで疲れきつた旅人たびびと路傍みちばたの石にこしをかけるやうに、本堂の横手よこてのベンチの上にこしおろした。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
りましたかさねて此義をも御吟味下さるやうねがひ上奉つると言に大岡殿横手よこて
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
母屋もや石垣いしがきしたにあるふるいけ横手よこてから、ひつそりとした木小屋きごやまへとほり、井戸ゐどわき石段いしだんのぼるやうにしまして、祖母おばあさんたちはういそいでかへつてつたときのことをわすれません。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
普請小屋ふしんごやと、花崗石みかげいし門柱もんばしらならべてとびら左右さいうひらいてる、もんうち横手よこて格子かうしまへに、萌黄もえぎつたなかみなみしろいたポンプがすわつて、そのふち釣棹つりざをふごとがぶらりとかゝつてる、まことにものしづかな
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)