ぬの)” の例文
こうしているうちに、とうとう、仕立屋したてやさんのかんしゃくだまが爆発ばくはつしました。仕立屋さんは仕立台したてだいあなからぬのきれをつかみだして
ふたりの男が、くぎをぬいてしまった木箱のふたを、横にのけますと、白いぬのでつつんだものが、箱いっぱいによこたわっています。
超人ニコラ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
若者わかものは、近所きんじょぬのたんわりに、手綱たづなとくつわをってうまにつけますと、さっそくそれにって、またずんずんあるいて行きました。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
最後の一人は、両手を頭上にうちふって哀願しているようだったが、隣の男が素早くすすみよると、するりと覆面のぬのをひきはいだ。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
仮面めんはとにかく、髪のぬれるのを気づかって、お蝶はふとそこに落ちてあった、幕のような、白いぬのを頭からすッぽりとかぶりました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ももさんは、なんだかうれしいような、かなしいような気持きもちがして、ぼんやりとがほこほことたる、ぬのをながめていました。
夕雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
お母さんは、ものの二つのひつと、達二たつじの小さな弁当べんとうとを紙にくるんで、それをみんな一緒いっしょに大きなぬの風呂敷ふろしきつつみました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
だがそれでも足りないと見え、塗り込めになっている書棚があり、昆虫を刺繍した真紅まっかぬのが、ダラリと襞をなしてかかっている。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
八畳の広間には、まんなかに浪花節を語る高座こうざができていて、そこにも紙やぬののビラがヒラヒラなびいた。室は風通しがよかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
正直に言うと、わたしはそれからの一日が、それはそれは待ち遠しくって、何度も、何度も、おさらにかけたぬのを取ってみた。
壁ぎわの木箱には、衣服のぬのがぼろぼろになってすこしばかりのこり、奥のほうの寝台にはわらがしいてあり、木製のろうそく立てもある。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
すべてからしめつたぬのかざしたやうにつた水蒸氣すゐじようき見渡みわたかぎしろくほか/\とのぼつてひくく一たいおほふことがあつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
二階は天井の低い六畳で、西日にしびのさす窓から外を見ても、瓦屋根のほかは何も見えない。その窓際の壁へよせて、更紗さらさぬのをかけた机がある。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこは、町の人たちが美しいぬのを買うところのようでした。見れば、おおぜいの人たちが、小さな店の前に集まっています。
きはめて一直線な石垣いしがきを見せた台の下によごれた水色のぬのが敷いてあつて、うしろかぎ書割かきわりにはちひさ大名屋敷だいみやうやしき練塀ねりべいゑが
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そも/\ちゞみとなふるは近来きんらいの事にて、むかしは此国にてもぬのとのみいへり。布はにてる物の総名そうみやうなればなるべし。
殿様といえども、眼に触れさせたくないので、大いそぎで、ゆたんのような唐草模様の大きなぬのを、ふわりと、彫りかけの馬の像へかけてしまった。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
女が三四人次の間に黙って控えていた。遺骸いがいは白いぬので包んでその上に池辺君の平生ふだん着たらしい黒紋付くろもんつきが掛けてあった。顔も白いさらしで隠してあった。
三山居士 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
机にかけるぬの切り子やセルロイドの筆立て、万年ペンのクリップ、風呂敷、靴にまで現われている趣味を通じて
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
ごわごわして、あらいたてのぬのだけが持っているこころよいにおいがぷーんとする。そればかりか、戸外に出ると六月のつよい陽光にまばゆいほど光るのである。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
橢圓形だゑんけいの部の周縁にの如き凹みの存するとの二つに由つてかんがふればおそらくは獸の皮なりしならんと思はる縁の部のみはぬのにて作りしものも有りしにや
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
東北でめくら巫女みこが舞わせているオシラサマという木の神は、ある土地ではぬのおおうた単なる棒であり、また他の土地では、その木の頭に眼鼻口だけを描いてある。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
可哀かあいい娘が白いぬのを干しているのだろう、というほどの意で、「否をかも」は「否かも」で「を」は調子のうえで添えたもの、文法では感歎詞の中に入れてある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
る、かぜなくしてそのもみぢかげゆるのは、棚田たなだ山田やまだ小田をだ彼方此方あちこちきぬたぬののなごりををしんで徜徉さまよさまに、たゝまれもせず、なびきもてないで、ちからなげに
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
西口ミサコの家からミサ子の母親が、うどんこと卵をねったはりぐすりぬのにのばしてもってきた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
たとえば、われわれが赤いぬのをみるとするね。赤くみえるのは、太陽たいよう光線こうせんのなかで赤い色のところだけをぬの反射はんしゃして、あとの色はみんないこんでしまうからなんだ。
おどりこは、ちいさなぬのに、湯わかしから湯をそそぎます。これはコルセットです。——そうです。そうです、せいけつがなによりです。白い上着うわぎも、くぎにかけてあります。
彼女は麻ぬののように真っ青になって、何かいいたそうにしたけれど、唇が病的にひっ吊ったばかりである。彼女はまるで斧で足を払われたように、へたへたと椅子に腰をおろした。
それにまアわたしどもの小牛等こうしなどはらをむしられて、八重縦やへたて文字もんじきずけられて、種疱瘡うゑばうさうをされぬのかれて、かゆい事は一とほりではありません、れに私共わたしども先年せんねん戦争せんさうの時などは
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
するとやがて、あかの層がぬのぎれのように拡がって、この四つの化物ばけものを包むのだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
またそれらのかゞみをおはかれるときには、はじめはふくろのようなものにをさめてれたに相違そういなく、いま發見はつけんされるかゞみはしくさつたぬののはしがいてゐるのをても、それをることが出來できます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
年中變らぬ稗勝ひえがちの飯に粘氣ねばりけがなく、時偶ときたま夜話に來る人でもあれば、母が取あへず米を一掴み程十能でいぶつて、茶代りに出すといふ有樣であつたから、私なども、年中つぎだらけのぬのの股引を穿いて
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
平次は丁寧に線香をあげて、さて死骸の顏をおほぬのを取りました。
あをぞらのなかに 黄金色こがねいろぬのもてめかくしをされた薔薇の花。
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
初夏の露台ろたいに見れば松花江それもロシヤのあゐ色のぬの
あるものは白きぬのにて右のかひなつるしたり——
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
なるほど、カンバスのぬのをかぶって棚の上に横たわっているのは、人間ぐらいの大きさのものだった。博士はカンバスをめくった。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あられのぶッき羽織に、艶の光る菅笠、十手袋をさして、ぬのわらじを穿いている。誰の目にも、一目瞭然りょうぜんたる、その筋の上役人。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風船球屋ふうせんだまやさん、そのあかいのをおくれ。」といって、おじいさんは、ふところからおおきなぬのった財布さいふして、あかいのをってくれました。
雪の上のおじいさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
いまのは勝負しょうぶなしにすんだので、また、四五にんのお役人やくにんが、大きなお三方さんぽうなにせて、その上にあつぬのをかけてはこんでました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
おとうさんはまたぬのをもちだして、仕立したてしごとをつづけました。むすこのほうは、ある親方おやかたのところにしごとにいきました。
ごろでは綿わたがすつかりれなくなつたので、まるめばこすゝけたまゝまれ保存ほぞんされてるのも絲屑いとくづぬの切端きれはしれてあるくらゐぎないのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そうだ、そうしてバルブレンのおっかあがさざ波を立てている小川へ出て、いまあらったばかりのぬのを外へしている。
なほ古きものにも見ゆべけれど、さのみはもとめず。のちのものには室町殿むろまちどの営中えいちゆうの事どもを記録きろくせられたる伊勢家のしよには越後ぬのといふ事あまた見えたり。
これを一か月間に白布はくふ一反ずつ長尺ちょうじゃくに織りあげさせ、ぬのの端にその村の地名を書き、それぞれ役人があずかりおいて、命令によってただちに駅送えきそうする。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そして、「ぼくなんか、いつまでたっても、そんなぬのは一ヤードだって買えやしないんだ。」と、心に思いました。
一同は毎日多くのつばめをつかまえてはそのくびに一同が漂着ひょうちゃくのことを書いたぬのをむすびつけて、はなしやった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
清三の教えるへやの窓からは、羽生から大越おおごえに通う街道が見えた。雨にぬれて汚ないぬのを四面にれた乗合馬車がおりおり喇叭らっぱを鳴らしてガラガラと通る。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
その一部は畳を離れて一尺ほどの高さまで上にかえるように工夫してあった。そうして全部を白いぬのいた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あの魔人ついらくのさわぎのさいちゅう、アッと思うまに、小林君の目の前に、まっ黒なぬのがかぶさって来て、そのまま気をうしなってしまったのでした。
青銅の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)