鷲鼻わしばな)” の例文
荘田しょうだの、思い出すだけでも、いきどおろしい面影も、だん/\思い出す回数が、少くなった。鷲鼻わしばなの男の顔などは、もう何時いつの間にか、忘れてしまった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
の厚きタオルなれば、のいひなづけのもとき給ふ中の一人二人ひとりふたりの姫達のために私はいたましき気の致しさふらふ。審判長は鷲鼻わしばなせる英人の大僧正にさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
鷲鼻わしばなの、口の大きい、五尺何寸とありそうな大柄の御隠居様が浅黄綸子りんずのような立派な着つけをお引摺りにして
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
色浅黒く、まゆが太く、眼はぎょろりとしてロイド眼鏡をかけて、鷲鼻わしばなで、あまり感じはよくないが、それでも、助手さんたちから、大いに騒がれているのだそうだ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そのまつたくの卵形たまごがたをした肌理きめの細かな顏には何一つ力といふものがなく、その鷲鼻わしばなにも小さな櫻桃さくらんぼのやうな口にも斷乎だんこたるものはなく、その狹い平坦へいたんひたひには思慮などなく
一等運転手は若いハイカラなヤンキー、客船メイルボート出身だけに淡水と、カラと、ワイシャツの最大浪費者だと聞いた。二等運転手は猶太ジュー系の鷲鼻わしばなを持った小男で、人種はよくわからない。
幽霊と推進機 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
鼻はふつくらと鈍角をした鷲鼻わしばなだが、それがちよつと団子鼻に近く、彼女がにつと笑みを含むやうな時には(さう言へばイリリヤは、決して声を立てて笑はないたちだつた——)
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
私の冷めたさの中には、父の冷めたさのほかに母からの冷めたさがあった。私の母方は吉田という大地主で、この一族は私にもつながるユダヤ的な鷲鼻わしばなをもち、母の兄は眼が青かった。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
父が、応接室へ出て行くと、鷲鼻わしばなの男は、やんごとない高貴の方の前にでも出たように、ペコ/\した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しながらお嬢様に懸想けそうして、うるさく縁組を申し入れ、お嬢様は、あのような鷲鼻わしばなのお嫁になるくらいなら死んだほうがいいとおっしゃるし、それで、旦那だんな様も、——
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
落ちくぼんだ小さい眼はいやらしく青く光って、鼻は大きな鷲鼻わしばなほおはこけて口はへの字型、さながら地獄の青鬼の如き風貌ふうぼうをしていて、一家中のきらわれ者、この百右衛門が
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)