鳥瞰図ちょうかんず)” の例文
旧字:鳥瞰圖
秋の澄んだ空の下には、大江戸の町々の屋根が、また橋や大川や小舟や両岸の柳までが、湖の底のもののように、鳥瞰図ちょうかんずをなしていた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鳥瞰図ちょうかんず式の粗雑なものはあったが、図がはなはだしく歪められているので正確な距離や方角の見当がつかないし、またどのくらい信用出来るかも不明である。
異質触媒作用 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この間その家の荒廃こうはいした庭のなかへ這入はいんで其処そこから一時間ばかりながめていた高原の美しい鳥瞰図ちょうかんずだの
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
山崎洋服店の裁縫師でもなく、天賞堂てんしょうどうの店員でもないわれわれが、銀座界隈の鳥瞰図ちょうかんずたのしもうとすれば、この天下堂の梯子段はしごだんあがるのが一番軽便けいべんな手段である。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
地図と鳥瞰図ちょうかんずの合の子のようなもので、平面的に書き込んである里程や距離を胸に入れながら、自分の立つ位置から右に左に見ゆる見当のまま、山や神社仏閣や城が
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
次に、私は滅多めったに自分の旧稿を読まない。それで今度珍しく読み直す機会に恵まれ、自分の踏んできた経路を鳥瞰図ちょうかんず的に見る事が出来て、自分ながらちょっと面白かった。
それは私に智的生活の鳥瞰図ちょうかんずを開展する。ここに人がある。彼はその田園の外に拡がる未踏の地を探険すべき衝動を感じた。彼は田園を踏み出して、その荒原に足を入れた。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
札幌さっぽろ行の列車は、函館の雑沓ざっとうをあとにして、桔梗、七飯なないいと次第に上って行く。皮をめくる様に頭が軽くなる。臥牛山がぎゅうざんしんにした巴形ともえなりの函館が、鳥瞰図ちょうかんずべた様に眼下に開ける。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
社会の出来事は、わば永遠の形のもとに見た鳥瞰図ちょうかんずになって、新聞を飾るだろう。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「ほれ、あの屋根が鳥瞰図ちょうかんずを描くYさんのお宅ですよ」
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
東海道の作はおも鳥瞰図ちょうかんず的なる山水村落の眺望を主とし、東都名所は人物を配置して風景中におのずから江戸生粋きっすいの感情を溌剌はつらつたらしめたり。東都名所新吉原と題したる日本堤夜景の図を見よ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
舟は走る、五色ごしきの日本ライン鳥瞰図ちょうかんずが私の手にある。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)