騒立さわだ)” の例文
旧字:騷立
織江であろう白鉢巻、白襷した小さい体が、靡きつ揺れつ髪乱れるように、騒立さわだつ芒の原の中を、前後左右によろめいている。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此一言実に藻西太郎の罪あるや無きやを探り尽す試験なれば胸のうち如何いかほどか騒立さわだつやらん、藻西太郎は意外にも
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
万法蔵院の晨朝じんてうの鐘だ。夜の曙色あけいろに一度騒立さわだつた物々の胸をおちつかせる様に、鳴りわたる鐘のだ。いつぱし白みかゝつて来た東は、更にほの暗いれの寂けさに返つた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
そら暗く水黒くして月星の光り洩れず、舷を打つ浪のみ青白く騒立さわだちて心細く覚ゆる沖中に、夜は丑三つともおもはるゝ頃、艙上に独り立つて海風の面を吹くがまゝ衣袂いべい湿りて重きをも問はず
雲のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
その時得三は袖を掲げて、雪より白き下枝の胸を、乳もあらわに押寛おしくつろぐれば、動悸どうき烈しく胸騒立さわだちて腹は浪打つごとくなり。全体虫が気に喰わぬはらわた断割って出してやる。と刀引抜き逆手に取りぬ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おしなべて黄ばみ騒立さわだがくの色。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
彼らが揺するそのためでもあろう、木々は騒立さわだきしり合い、にわかに山々谷々に、おろしが吹くかと想われた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
万法蔵院の晨朝じんちょうの鐘だ。夜の曙色あけいろに、一度騒立さわだった物々の胸をおちつかせる様に、鳴りわたる鐘のだ。いっぱし白みかかって来た東は、更にほの暗いれの寂けさに返った。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
やがて遍路の悲愁かなしみに雲も騒立さわだ
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
と、遥かの峰の方から、あたかもおろしが渡ったかのように、谷をうずめて群れ立っていた木々が、揺れ、靡き、騒立さわだきしり、悲しそうに啼く猿猴の声が、はらわた断つように響き渡った。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
つづいて八方の木々の枝葉が、騒立さわだち群れ立ちきしをあげた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)