とま)” の例文
アビシニアの馬途中で騎手と離るると必ず昨夜とまった処へ還るとベーカーの『ゼ・ナイル・トリビュタリース・オヴ・アビシニア』
畠に沿う道のかなたに車のとまる音と村の子供の声が聞える。葉の落ちた梅林を透して米兵に連れられた日本ムスメのキモノの閃くのが見える。
冬日の窓 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おぢいさんもそのうちにまじつて、見物してゐますと、どういふものだか、山車がおぢいさんの前まで来ますと、ぴつたりととまつてしまひました。
拾うた冠 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
主人あるじらしき人の車その門にとまりしを見たる人まれなり、売り物なるべしとのうわさ一時は近所あたりの人の間に高かりしもいつかこのうわさも消えてあとなく
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
とまった馬車からは、のろくさしたような人が降りたり乗ったりして、幾台となく来ては大通りの方へ出て行った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それでは私が心苦しい。……どうもこのままお別れではいさぎよくありません。家弟の無礼は、私から謝します。まあ、しばらくおとまりあって、ゆるゆる兵馬を
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駅の前には雨に打たれた古ぼけた自動車が一台とまっていたきりだった。圭介の外にも、若い女の客が一人いたが、同じ療養所へ行くので、二人は一しょに乗って行く事にした。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
今、世界のすべての機関車を圧倒するやうにしてとまつた。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
いま世界のすべての機関車を圧倒する様にしてとまつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
玩具のように小さく見える列車が突然とまって、また走り出すのと、そのあたりの人家の殊に込み合っている様子とで、それは中山の駅であろうと思われた。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
半途でとまって右手に持った鎗を下げ左手で旗を三度振って宮廷を礼し、また走り登って鐘塔に入り徒歩で出で最高の絶頂に上り、金の天使像に坐って旗を振る事数回
どこでもいいから車がとまり次第、次の駅で降りて様子を窺い、無事そうならそのまま乗り直すし、悪そうなら船橋まで歩いて京成電車へ乗って帰るがいいと言うものもある。
買出し (新字新仮名) / 永井荷風(著)
元亨釈書げんこうしゃくしょ』に藤原伊勢人いせひと勝地を得て観音を安置せんと、貴船神きぶねじんの夢告により白馬に鞍置き童を乗せ馬の行くに任すと山中茅草ちがやの上にとまる、その地へ寺を立てたのが鞍馬寺だとある。
雷門かみなりもんといっても門はない。門は慶応元年に焼けたなり建てられないのだという。門のない門の前を、吾妻橋あずまばしの方へ少し行くと、左側の路端みちばたに乗合自動車のとまる知らせの棒が立っている。
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
会社の構内にあった父の社宅は、埠頭はとばから二、三町とは離れていないので、むちの音をきくかと思うと、すぐさま石塀に沿うて鉄の門に入り、仏蘭西フランス風の灰色した石造りの家の階段にとまった。
十九の秋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
電車が来てとまると共に其戸の明くのを遅しと、あたりの人達は争つて乗込むので、乗車場プラツトフオームは俄にがらりとなる。友田は握つた女の手を放さず、後の壁際に作り付けた腰掛の方へと歩み寄りながら
男ごゝろ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
乗合自動車がとまる知らせの柱も立っているので、わたくしは紫色の灯をつけた車の来るのを待って、それに乗ると、来る人はあってもまだ帰る人の少い時間と見えて、人はひとりも乗っていない。
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
やがて公園の入口らしい処へとまって、車は川の見える堤へのぼった。
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)