わらじ)” の例文
前刻さっきから響いていた、鉄棒かなぼうの音が、ふッとむと、さっさっと沈めたわらじの響き。……夜廻りの威勢の可いのが、肩を並べてずっと寄った。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
横川よりゆくての方は、山のくずれおちて全く軌道をうずめたるあり、橋のおちたるありて、車かよわずといえば、わらじはきていず。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
伊「花里さん、もうちっとだから辛抱しておいでよ、ちょいと首を出して御覧、品川はあんなに遠くなったから、此処こゝまで来れば大丈夫かねわらじだ、おいらはえらくなったぜ」
その草履の大きさは三四尺、これを山丈のわらじと称すとある。『四隣譚叢しりんだんそう』などによれば、信州は千隈川ちくまがわの水源川上村附近の山地においても、山姥のくつの話を信じている。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
よほど遠くから出て来るものと見え、いつでもわらじ脚半掛きゃはんが尻端折しりはしおりという出立いでたちで、帰りの夜道の用心と思われる弓張提灯ゆみはりちょうちんを腰低く前で結んだ真田さなだの三尺帯のしりッぺたに差していた。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
通路には、林檎やバナナの皮、グジョグジョした高丈たかじょうわらじ、飯粒のこびりついている薄皮などが捨ててあった。流れの止った泥溝どぶだった。監督はじろりそれを見ながら、無遠慮に唾をはいた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
稿わらにとぼしきゆゑわらじをはかず、男女徒跣はだしにて山にもはたらく也。
麻生は鶏を島村に渡して、わらじをびちゃびちゃ言わせて帰って行った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)