隠顕いんけん)” の例文
旧字:隱顯
日光の隠顕いんけんするごとに、そらの色はあるいは黒く、あるいはあおく、濃緑こみどりに、浅葱あさぎに、しゅのごとく、雪のごとく、激しく異状を示したり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
丈高たけたかき草の道などで、近きが隠れ、遠きが現われ、いわゆる身代りの隠顕いんけん出没によって、追う者の眼を惑わし惑わし逃げていたのだ。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
梢の切れ目に隠顕いんけんする湿地帯の彼方を、バンカを水牛にかせて三四人の男達がそれに乗りゆるゆると動いて行くのが見える。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
コバルトの軍艦旗は色うすく、金剛石山の隠顕いんけん砲台をかくす椰子やしの葉も、ざわざわと悲しみの歌をうたっている。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
その上、子供の様に脊が低いのと、着物の色合が保護色めいて黒っぽい為に、チラチラと隠顕いんけん自在のとらえ所のないものの様で、ともすれば見失い相になるのだ。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
銀色の玉兎ぎょくとが雲間に隠顕いんけんして居る光景は爛漫らんまんたる白花びゃくげを下界に散ずるの趣あり、足音はそくそくとして寒気凜然りんぜんはだえに迫るものから、荷持にもちも兵士もふるいながら山を登りますと
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「これは隠顕いんけんインキで書いたものに違いありません。あなたがご覧になった時は、たしかに文字が書かれていて、それが一定の時間を経て消えたのです。ちょっと待っていてください」
深夜の電話 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「いかにせん、電飛でんぴの神通力なく、把握の爪なく、隠顕いんけん自在の才もありません。まず龍は龍でも、頭に土の字のつく龍のほうでしょうか」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ると、廊下の向うには、うずまく毒煙を隔てて、チョロチョロと、赤黒い焔が隠顕いんけんしている。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
実にその物凄く快濶かいかつなる有様に見惚みとれて私は湖岸の断壁岩だんぺきがん屹立きつりつして遙かに雲間に隠顕いんけんするところのヒマラヤ雪峰を見ますると儼然げんぜんたる白衣びゃくえの神仙が雲間に震動するがごとく
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
開放あけはなったガラス戸の外は一望の緑、眼下には湯壺ゆつぼへの稲妻型廊下いなづまがたろうかの長い屋根、こんもり茂った樹枝の底に、鹿股川かのまたがわの流れが隠顕いんけんする。脳髄がジーンと麻痺まひして行く様な、なき早瀬のひびき
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)