隠者いんじゃ)” の例文
その日、近郷巡回の偵察帰りに、加賀田の隠者いんじゃ毛利時親に会ってきた弟の正季は、なにかの報告も終ったあとで、正成へすすめていた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
葉子は美しい不思議な幻影でも見るように、電気灯の緑の光の中に立つ二人の姿を、無常を見ぬいた隠者いんじゃのような心になって打ちながめた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
悟浄が仕えてからちょうど九十日めの朝、数日間続いた猛烈な腹痛と下痢げりののちに、この老隠者いんじゃは、ついにたおれた。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
先生は「日本における英国の隠者いんじゃ」というような高尚こうしょうな生活を送っているらしく思われた。
詩はどうかすると隠者いんじゃのように大都会に住んでいる。うん、詩だったか。
「てんぐや、隠者いんじゃが、それでいたといいます。」
山に雪光る (新字新仮名) / 小川未明(著)
「さだめし世に聞こえし隠者いんじゃ、御尊名は?」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
短いが、蔦葛つたかずら桟橋かけはしがある。南宋画などによくある隠者いんじゃの門といった風な山荘の灯を見たのは、そこを渡って幾らも歩かないうちだった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから傍の畑に入りこちらを見返りもせずにせっせと草を取り始めた。隠者いんじゃの一人に違いないと子路は思って一揖いちゆうし、道に立って次の言葉を待った。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
菊王としては、隠者いんじゃ時親に、よほど心をひかれ、一個の有力な宮方お味方の発見とまで考えているらしいが、日野俊基は、そうは買わない。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「困るよ、今から隠者いんじゃになられては。——そもそもわれわれは、これから大いに世に出てすあらんとしている者ではないか」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今から君子や隠者いんじゃの生活でもありますまい。百姓をやるなら何もわれわれ桃園に血をすすり合って、こんなとこまで、旗を
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも、百坪ほどな幕囲いのまわりは、きれいに箒目さえ立っていた。まるで隠者いんじゃむ山中の閑居にも似ている。きれいに掃かれた土の上には松落葉がこぼれていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
豊家の遺孤いこを守って、徳川老大御所おおごしょの関東軍との義戦に、この一少年弁次郎が、いわゆる九度山くどやま隠者いんじゃ真田幸村として、大坂入城者の到着簿とうちゃくぼ第一にその名を見出す日があろうとは。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「怪しむくらいならここへ通しはせん。わしが尊敬しておかぬ加賀田の隠者いんじゃに説かれて、きさまも料簡りょうけんを入れかえたと聞き、いまでは味方と信じておるのだ。して加賀田の先生は?」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
隠者いんじゃになって暮したがましというものだが、清盛には、隠者になって月花をながめてだけでは生きてゆくかいもない。隠者にはなれない俺であるからと、彼は正直に、自分の性質を認めていう。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうも、分りませんな。世にいう隠者いんじゃとでもいう人でしょうか」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「加賀田の隠者いんじゃの許へ、なにを習いに」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)