鉄砧かなしき)” の例文
旧字:鐵砧
鉄蹄てっていの真赤になったのが鉄砧かなしきの上に置かれ、火花が夕闇を破って往来の中ほどまで飛んだ。話していた人々がどっと何事をか笑った。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
盛んに鉄砧かなしきを叩いているところへ、同じ種族の一人の子供が糸の切れたギターを持って来て、向槌むこうづちを打っている男に直してくれと頼む。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それは鍛冶屋で、トンカン、トンカンと鉄砧かなしきを撃つかたい響が、地の底まで徹る様に、村の中程まで聞えた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
真向まむかいの鍛冶かじ場で蹄鉄ていてつを鍛える音、鉄砧かなしきの上に落ちる金槌かなづちのとんちんかんな踊り、ふいごのふうふういう息使い、ひづめの焼かれるにおい、水辺にうずくまってる洗濯せんたく女のきね
何でも、ドイツかイタリーの音楽に「鍛冶屋」というのがあって、トントンと鉄砧かなしきを叩く、それからヒントを得たと言っていた。そういうふうにして、安藤君の作品が相当に集まって行った。
宝塚生い立ちの記 (新字新仮名) / 小林一三(著)
仕事場のふいごまわりには三人の男が働いていた。鉄砧かなしきにあたる鉄槌かなづちの音が高く響くと疲れ果てた彼れの馬さえが耳を立てなおした。彼れはこの店先きに自分の馬を引張って来る時の事を思った。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あの嗚咽おえつする琵琶の音が巷の軒から軒へと漂うて勇ましげな売り声や、かしましい鉄砧かなしきの音とざって、別に一どうの清泉が濁波だくはの間をくぐって流れるようなのを聞いていると、うれしそうな
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
鍛冶かじ鉄砧かなしきの音高く響きて夕闇ゆうやみひらめく火花の見事なる
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)