のろ)” の例文
旧字:
昼と夜とののろい交替が変化を無くしてしまふ、そして単調を——虚無の此の半分を増すのだ。そこでは長いこと闇に浸つてゐられる。
大きさは鉄嶺丸てつれいまるとほぼ同じぐらいに思われるが、船足ふなあしがだいぶのろいと見えて、しばらくのにもうこれほどおっつかれたのである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つまり、高齢で歩行ののろい博士に、敷物カーペットに波を作りながら音響を立てずして追い付ける速力と、その機械的な圧進力——。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
掻く積りで大いに苦心しているのさ。田舎の自動車はのろいなんて悪口を書かれると早速営業に差し響くからね
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
私は瓦斯ガスランプに火を点じて検眼鏡を取り出し、患者と差向いで、その両眼を検査いたしましたところが、例の通り私の検査が至って手のろいので、彼女は三叉さんさ神経痛の発作も加わったと見え
痴人の復讐 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
武蔵が何を迷っているか、権之助にはその肚がめないのである。疑いの眼を彼の背へ光らしている。そして一歩でもへだつまいとするもののように、のろい牛の脚を叱咤しながらいて行った。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一本筋の高い処にある道を、静かながら北の山からすべり落ちて来る風にあらいざらい吹きさられて、足ののろいおつれと一緒に、私はもうちっと早く歩きたいもんだなあと思いながら歩いて行く。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そしてっと待っていた。時間の経過は実にのろく彼には何時間か経った様な気がした——と、その時ドアがそっと開かれた。スパイダーは棍棒を握りしめ、ドアの近くに身を寄せて息を凝らしていた。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
軽便鉄道けいべんてつどうというのだそうだが、狭くてのろい上にガタ/\して一向便利でない。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)