身過みす)” の例文
何も時世時節ときよじせつならば是非もないというような川柳式せんりゅうしきのあきらめが、遺伝的に彼の精神を訓練さしていたからである。身過みす世過よすぎならば洋服も着よう。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
贔負目ひいきめには雪中せつちゆううめ春待はるまつまの身過みす世過よす小節せうせつかゝはらぬが大勇だいゆうなり辻待つじまちいとま原書げんしよひもといてさうなものと色眼鏡いろめがねかけて世上せじやうものうつるは自己おのれ眼鏡めがねがらなり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
また、百石や二百石の、身過みすぎのための食禄をさがす気になれば、それも何処にでもあると考える。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平常ひごろ、彼女が思っていた通り、やはり伏原半蔵は優し気のある人だった。年は四十を越え、無頼ぶらいな浪人仲間に身過みすぎはしているが、今の言葉でも、友誼ゆうぎに厚い事はわかる……。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この伝統の強い三河きの仲間を去って、ふたたび飄乎ひょうことして、浪々の身過みす世過よすぎを送っていたかもしれない——と常に思うにつけて、その恩を、その知己を、感謝している彼なのである。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)