賓客ひんかく)” の例文
そしてこれに招くべき賓客ひんかくすうもほぼ定まっていた。然るに抽斎の居宅には多くかくくべき広間がないので、新築しなくてはならなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
侍者じしゃ小間使いなどまで付けて、賓客ひんかくの扱いであるのみでなく、花栄が一日の軍務から帰邸すると、夜ごと夜ごとが、家庭的歓迎の宴みたいであった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
江戸には雪のふらざる年もあれば、初雪はことさらに美賞びしやうし、雪見のふね哥妓かぎたづさへ、雪のちや賓客ひんかくまねき、青楼せいろうは雪を居続ゐつゞけなかだちとなし、酒亭しゆていは雪を来客らいかく嘉瑞かずゐとなす。
是を目に見えぬ賓客ひんかくの同伴者と感じたのも自然であったろうが、その上になお彼らが水を渡って、どこからともなく島に入ってくることは、島に住む者の年久しき経験でもあった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この台所にては毎日平均五十人前以上の食事を調ととのう。百人二百人の賓客ひんかくありても千人二千人の立食を作るもなここにて事足るなり。伯爵家にては大概各日位に西洋料理を調えらる。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
下宿人に対する待遇が賓客ひんかくを待つ様に鄭重である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
何しても彼らは、その人の生肝いきぎもを食らうどころの騒ぎではない。次の日には、手下一同にも告げて、賓客ひんかくの礼をとらせ、彼をひょうの皮の椅子いすにあがめて、賊首三名は下にへりくだり
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
会食の時間となれば賓客ひんかくは三々伍々幾多いくたの卓にって祝杯を挙げ二十余名の給仕人燕尾服えんびふくにて食卓の間を周旋しゅうせんす。名にし負う一年一度の夜会主客しゅかく陶然とうぜんとして歓声場裏に和気の洋々たる事春のごとし。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
牢城の管営かんえい父子、武松を獄の賓客ひんかくとしてあがめる事
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)