おんぶ)” の例文
彼女は肥つてゐる上に思切り着物を着込み、その上に當歳の赤ン坊をネンネコでおんぶしてゐるから、いつもより餘程膨大された恰好になつてゐた。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
その女は眉毛まゆげの細くて濃い、首筋の美くしくできた、どっちかと云えばいきな部類に属する型だったが、どうしても袢天おんぶをするというがらではなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お産の祈願をしたものが、礼詣りに供うるので、すなわち活きたままの絵馬である。胸に抱いたのも、膝に据えたのも、中には背におんぶしたまま、両のを合せたのもある。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
周りに梅の老木の多い温泉宿ゆやどでは、部屋がどれもがら空きであった。お銀は子供をお手かけおんぶして、翌日あくるひも一日広い廊下を歩いたり、小雨のを、高いがけの上に仰がれる不動堂へ登ったりした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
何と肩へ喰いつくように顔をかくして、白昼まっぴるま、それでもこの野郎の背中へおんぶをしましたぜ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
村端むらはずれで、寺に休むと、此処ここ支度したくを替えて、多勢おおぜい口々くちぐちに、御苦労、御苦労というのを聞棄ききずてに、娘は、一人の若い者におんぶさせた私にちょっと頬摺ほおずりをして、それから、石高路いしだかみちの坂を越して
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)