誰一人だれひとり)” の例文
その頂上てうじやうにはふるむかしから、大理石だいりせきのやうにかたくて真白ましろゆきこほりついてゐて、かべのやうにそゝりつ、そこまで、まだ誰一人だれひとりのぼつたものがない。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
誰一人だれひとりわたしの自由を束縛そくばくするものはなかった。わたしはしたい放題に振舞ふるまっていたが、とりわけ最後の家庭教師と別れてからはなおさらだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
誰一人だれひとりものもなかろうとおもったのが、手落ておちといえばいえようが、それにしても、しん七があとってようなぞとは、まったくゆめにもおもわなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
私は、出來ることなら京都から逃出して誰一人だれひとり知らないやうな市へ行つてしまひたかつた。第一に安靜。がらんとした旅館の一室。清淨な蒲團。匂ひのいい蚊帳かやのりのよく利いた浴衣ゆかた
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
ぼくたちむら子供こどもは、見送みおくるつもりでしばらくかねのうしろについていった。さんざかもすぎたが、誰一人だれひとりかえろうとしなかった。小松山こまつやまのそばまでたが、まだだれかえるようすをせなかった。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
その名を、「いなずまエレクトリーク」といって、父のほかには誰一人だれひとり、乗りこなす人はなかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)