詐偽さぎ)” の例文
旧字:詐僞
どうかすると小刀でく。窃盗せっとうをする。詐偽さぎをする。強盗もする。そのくせなかなかよい奴であった。女房にはひどく可哀がられていた。
よしや幻想に欺かるゝ事ありとも、二人が間には一点の詐偽さぎなく、一粒の疑念なし、二にして一、一にして二、斯の如く相抱て水に投ず。
さすれば、雑司ヶ谷のかの女は、その老爺としめし合せて、狐のたくらみごとで十金の詐偽さぎ。貴公より十金誑し取ったに決った。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼は詐偽さぎの前科をもっていた。彼等は財産横領及び不法監禁の罪名の下に令状を執行されて、それ/″\処決された。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
慈善の名を借りて詐偽さぎを働らき、インスピレーションと号して逆上をうれしがる者がある以上はベースボールなる遊戯のもとに戦争をなさんとも限らない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
嘘をけい、誰じゃと思うか、ああ。貴公目下のこの行為は、公の目から見ると拐帯かどわかしじゃよ、詐偽さぎじゃな。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
四幕目は又前のヹルサイユ宮廷の劇場の楽屋で、右手に舞台をなかば据ゑ、開閉あけたてに今演じて居るモリエエルの作の「詐偽さぎ漢」の舞台の人物が見える仕掛に成つて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
天下の人皆ざいむさぼるその中に居て独り寡慾かよくなるが如き、詐偽さぎの行わるる社会に独り正直なるが如き、軽薄無情の浮世に独り深切しんせつなるが如き、いずれも皆抜群のたしなみにして
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
彼等ガ虚言ヲ吐キ、詐偽さぎヲ働クガ如キハかつテ聞カザル所ニシテ、人ニ向ツテハ極メテ親切ナリ。且ツ、名誉ヲ重ンズルノ念強クシテ、時トシテハ殆ド名誉ノ奴隷タルガ如キ観アリ
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ドリスの方は折々人に顔を見せないと、人がどうしたかと思って、疑って穿鑿せんさくをし始めようものなら、どんなまずい事になるかも知れない。詐偽さぎの全体が発覚すまいものでもない。
釣魚つりって奴は一寸詐偽さぎに似ていますな」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
他の時代には見られぬ詐偽さぎ商人です。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
ただその心中におもえらく、内行の不取締、醜といわるれば醜なれども、詐偽さぎ破廉恥はれんちにはあらず、また我が一身の有様はおのずから人に語るべからざる都合もあることなるに
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
世をはばかる監視中の顔をあてて、匍匐はらばいになって見ていた、窃盗せっとう、万引、詐偽さぎもその時二十はたちまでにすうを知らず、ちょうど先月までくらい込んでいた、巣鴨が十たび目だというすごい女
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)