つか)” の例文
彼は余りに急いだため、余りに夢中であつたため、丁度その時、上から降りようとした人に、烈しくつかつてしまつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
貫一は覚えず足を踏止めて、そのみはれるまなこを花に注ぎつ。宮ははやここに居たりとやうに、彼は卒爾そつじの感につかれたるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
三たび目の野草やそうの花が咲いた。彼は某日あるひ水を飲むために谷川の岸に出た。狭い流れではあるが滝のように流れ落ちる水が岩にぶっつかってすさまじい光景を呈していた。
仙術修業 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
折が折とて妾は胸をつかれたようにハッとし、持ちあげていた荷物をドスンと廊下へ落してしまった。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
実際問題につかるとその衝に当るものは、幸福の代りに惨澹たる不幸を脊負込むのである。
工場の窓より (新字旧仮名) / 葉山嘉樹(著)
永遠に——。鼈四郎べつしろうはときどき死ということをおもい見ないことはない。彼が生み付けられた自分でも仕末に終えない激しいものを、せめて世間に理解して貰おうと彼は世間にうちつかって行く。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼は余りに急いだため、余りに夢中であったため、丁度その時、上から降りようとした人に、烈しくつかってしまった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
やをら起たんと為るところを、蒲田が力に胸板むないたつかれて、一耐ひとたまりもせず仰様のけさま打僵うちこけたり。蒲田はこのひまに彼の手鞄てかばんを奪ひて、中なる書類を手信てまかせ掴出つかみだせば、狂気の如く駈寄かけよる貫一
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)