行衣ぎょうえ)” の例文
白の行衣ぎょうえに高足駄をはき、胸に円鏡を光らせてかけ、手に御幣の切られたのを持って、それを頭上で左右に振って、鋭い声で喚いている。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
杖により、壁にもたれて、じゃくとしているその人は、寝ているのか、起きているのか分らない。白い行衣ぎょうえすそを、かやの煙がうすくって——。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わたしと同じことに、ここにこうして白い行衣ぎょうえも、白い手甲脚絆も、金剛杖も、あなたの分をすっかり取揃えて持って来ましたから、これをお召しなさい」
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
境の前にしゃがんだ時、山伏は行衣ぎょうえの胸にうずたかい、鬼の面が、襟許えりもとから片目でにらむのを推入おしいれなどして
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、死力であがいたが、行衣ぎょうえを泥にするだけで、起直れもしなかった。太股ふとももと肩の辺りに、二本も矢をうけていたのである。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
壇上に坐りこちらへ背を向けた、鬼火のうば行衣ぎょうえ姿が、物の怪のように見えていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのお銀様も白の行衣ぎょうえを着て、白の手甲脚絆てっこうきゃはんかおだけはすっかり白衣で捲いて、その上に菅笠、手には金剛杖——そうしてお雪ちゃんの枕許に立って呼びかけたその姿だけを以て見れば、決して
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ゆうべの夜中から、鹿ししたにの奥峰から山づたいに参ったので、麓にある山伏の行衣ぎょうえを取り寄せて身にまとういとまもなかったのでござる。それゆえに——」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神事を執行とりおこなう人達で、先頭には杉右衛門が立っている。跣足はだし、乱髪、白の行衣ぎょうえ、手に三方さんぼうを捧げている。後につづいたは副頭領で岩太郎の父の桐五郎であった。手に松明たいまつを持っている。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その、ぼうとみはった目の前には、ひとりの美女が立っていた。えんとはいえないがすきとおる水のような美しさ、白い行衣ぎょうえを着た肌の白い黒髪の美女である。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「髪をさばき、白き行衣ぎょうえを着た人なら、この一水から小舟を拾って本流へ出、そこに待っていた一艘の親船に乗って、霞のごとく、北のほうへ消えました」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今夜、躑躅つつじさきたちりこんだ覆面ふくめんの少女とはまるでちがったふたりの者のすがたがチラと見えた。一方は白い行衣ぎょうえをきて手に戒刀かいとうとおぼしき直刃すぐはの一とうを引っさげた男。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)