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蛼
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こおろぎ
ふりがな文庫
“
蛼
(
こおろぎ
)” の例文
お栄はそれを見ると同時に、急に
蛼
(
こおろぎ
)
の鳴く声さえしない真夜中の土蔵が怖くなって、思わず祖母の膝へ
縋
(
すが
)
りついたまま、しくしく泣き出してしまいました。
黒衣聖母
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
わたくしがその年の秋に初めて鳴出す
蛼
(
こおろぎ
)
の声をききつけるのは、大抵こういう思いがけない瞬間からである。
虫の声
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
少し目の慣れるまで、歩き
艱
(
なや
)
んだ
夕闇
(
ゆうやみ
)
の田圃道には、
道端
(
みちばた
)
の草の蔭で
蛼
(
こおろぎ
)
が
微
(
かす
)
かに鳴き出していた。
百物語
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
どこかで鳴く
蛼
(
こおろぎ
)
の
音
(
ね
)
さえ、
併
(
なら
)
んでいる人の耳に
肌寒
(
はださむ
)
の
象徴
(
シンボル
)
のごとく響いた。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
柴栗の焼いたのを盆に盛って、おげんは
行燈
(
あんどう
)
の前にその白い顔を見せた。奥州の夜寒に
蛼
(
こおろぎ
)
もこの頃は鳴き絶えて、庭の
銀杏
(
いちょう
)
の葉が闇のなかにさらさらと散る音がときどきに
時雨
(
しぐれ
)
かとも疑われた。
半七捕物帳:33 旅絵師
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
▼ もっと見る
柄にもなく神妙な顔をして寂しくはしごの下の早い
蛼
(
こおろぎ
)
に聴き入っていた。
小説 円朝
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
外では
鐸
(
たく
)
の音が
蛼
(
こおろぎ
)
の鳴くように聞える。
白
(新字新仮名)
/
ライネル・マリア・リルケ
(著)
木の葉におるは雨蛙、草の蔭のは
蛼
(
こおろぎ
)
よ。
ファウスト
(新字新仮名)
/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
(著)
秋の夜ごとにふけ行く
夜半過
(
やはんすぎ
)
わけて雨のやんだ後とて庭一面
蛼
(
こおろぎ
)
の声をかぎりと鳴きしきるのにわたしは
眠
(
ね
)
つかれぬままそれからそれといろいろの事を考えた。
雨瀟瀟
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
ただ暖かい野の朝、
雲雀
(
ひばり
)
が飛び立って鳴くように、冷たい
草叢
(
くさむら
)
の
夕
(
ゆうべ
)
、
蛼
(
こおろぎ
)
が忍びやかに鳴く様に、ここへ来てハルロオと呼ぶのである。しかし木精の答えてくれるのが
嬉
(
うれ
)
しい。
木精
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
つづらの
蓋
(
ふた
)
をとって見たり、かぶせて見たり
一日
(
いちんち
)
そわそわして暮らしてしまいましたがいよいよ日が暮れて、つづらの底で
蛼
(
こおろぎ
)
が鳴き出した時思い切って例のヴァイオリンと弓を取り出しました
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
蛼
(
こおろぎ
)
と云う奴のように
ファウスト
(新字新仮名)
/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
(著)
それは
梵鐘
(
ぼんしょう
)
の声さえ二三年前から聞き得なくなった事を、ふと思返して、一年は一年よりさらに
烈
(
はげ
)
しく、わたくしは
蝉
(
せみ
)
と
蛼
(
こおろぎ
)
の庭に鳴くのを
待詫
(
まちわび
)
るようになった。
虫の声
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
「ありがたい事に弓は無難です。今度はヴァイオリンを同じくランプの
傍
(
そば
)
へ引き付けて、裏表共よくしらべて見る。この
間
(
あいだ
)
約五分間、つづらの底では始終
蛼
(
こおろぎ
)
が鳴いていると思って下さい。……」
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
床
(
とこ
)
の
後
(
うし
)
ろで
蛼
(
こおろぎ
)
が鳴いている。
野分
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
蛼
部首:⾍
13画