虫酸むしず)” の例文
旧字:蟲酸
お母さんは、僕にまであの男を天才だと思わせたいんでしょうが、僕はうそがつけないもんで失礼——あいつの作品にゃ虫酸むしずが走りますよ。
自分自身の体でありながら毛むくじゃらな腕や胸を見ると、ゾッと虫酸むしずが走るのを、どうすることも出来ませんでした。
足の裏 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
でも、あたしを愛してはいたのですけれど、そうされればされる程、虫酸むしずが走る程いやでいやで仕方がなかったのです
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もつとも悪性の伝染病の心配だけはまづ無いはずですけれど、ページのまくれあがつた手垢てあかだらけの娯楽雑誌なんか、手にとるより先に虫酸むしずが走ります。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
お通は、この大将の泥鰌どじょうひげが、いつぞやの晩のいやらしいことがあって以来、見るのも虫酸むしずが走ってならなかった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼のすがすがしい秀麗しゅうれいな顔が、その瞬間しゅんかんわたしには、虫酸むしずが走るほどいやだったし、おまけに彼が、人を馬鹿ばかにしたようなふざけたつきで、じっとわたしを見ているので
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「いいってことよ」とか「べらんめえ」とか連発するが、虫酸むしずが走るようで聞いていられない。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その名を聞いてさえ虫酸むしずが走る程山田に悪感を持つ様になった祖母は、そんな家へ行きでも仕様ものなら一生払い落す事の出来ない「つきもの」にとりつかれて仕舞いでもするか
お久美さんと其の周囲 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
何か虫酸むしずがはしるように、生理的ないやらしさをさえ感じた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
銀子は虫酸むしずが走るようで、そんな顔をしていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あれから、思っただけでも虫酸むしずの走る花子のことを考えると、私は絶えて春日を訪れることもなかった。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
それを今、ここんとこで思い返していると、なんだかゾクゾク虫酸むしずが走ってくるようだぜ。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
窯焚きの百助は、虫酸むしずの走るような眼をくれて、いきなりそばへ寄って行った。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ハハハハハハ、まったくだわ。あんたは話せないけど可愛い可愛い人。柾木さんは話せるけど、虫酸むしずの走る人。それでいいんでしょ。あんなお人好しの、でくの坊に惚れる奴があると思って。ハハハハハハハハ」
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この話を聞いているうちに、私はまだつて経験したことのない、激しい不愉快さを覚えた。これが嫉妬であろうか、虫酸むしずの走る、じっとしていられないいやあな感じであった。
虫酸むしずが走るではないか。父は手もなく、あの山師坊主に乗ぜられているのだ。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)