)” の例文
たゞ母の衣には、何と云うものか特別に甘い匂のする香がきしめてあったので、じっと無言で抱きしめられている間が好い気持であった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と源氏が言ったので、不思議がって探り寄って来る時に、き込めた源氏の衣服の香が顔に吹き寄ってきた。中将は、これがだれであるかも、何であるかもわかった。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かたはらにある衣桁いかうには、紅梅萌黄こうばいもえぎ三衣さんえを打懸けて、めし移りに時ならぬ花を匂はせ、机の傍に据ゑ付けたる蒔繪のたなには、色々の歌集物語かしふものがたりを載せ、柱には一面の古鏡を掛けて
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
きましょう
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そう云ってそれを置いて行ったが、衣筥の中から出たものは、立派なてんかわごろもで、昔の人のきしめた香の匂が、今もなつかしくかおっているのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
現に左大臣の装束にきしめてあるこうにおいが、此の御簾のうちへかぐわしく匂って来るのを見れば、彼女の衣の薫物たきものの香も左大臣の席へ匂っているに違いない。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
恐れ入ったような形で畳にひたいを当てたまゝかしこまっている河内介は、そのあたりに立ちまようほのかな品のよいき物の香に鼻をたれて、ひとしお威壓されたようにこうべを垂れた。
かりにも女らしい女が二十人と寄りつどったところにかもし出されるきら/\しい色彩と、れないき物のにおいとが、生れて始めて彼の眼の前に一箇の花園をひろげたのである。
彼女はおり/\、傍の机の上から香炉こうろを取って、それで髪の毛をきしめる。