薄金うすがね)” の例文
薄金うすがねで作った吊鐘形つりがねがたの——それに把手とってが付いているので——戦場にでも雨の夜行にでも持ち歩けるがんどうとよぶ燈具だった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黄金きんまた銀の薄金うすがねを覆輪に取って、しっくりと張るのだが、朱肉入、おごった印章入、宝玉の手奩にも、また巻煙草入まきたばこいれにも、使う人の勝手で異議はない。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
切り裂かれた疵口きずぐちからは怨めしそうに臓腑ぞうふい出して、その上には敵の余類か、こがねづくり、薄金うすがねよろいをつけたはえ将軍が陣取ッている。はや乾いた眼の玉の池の中にはうじ大将が勢揃せいぞろえ。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
ぬさの如く束ねたる薄金うすがねはさら/\と鳴り、彩りたる紐はたてがみと共にひるがへり、ひづめの觸るゝ處は火花を散せり。かゝる時彼鐵板は腋を打ちて、拍車にちぬると聞く。群衆は高く叫びて馬の後に從ひ走れり。
釣瓶の竿を握ったまま、鉢金はちがねかぶと薄金うすがね面頬めんぼおに、ほとんど眼と鼻だけしか現わしていない武者の顔は、屋内を振向いて、ややしばらく鶴菜の影を凝視していた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
騎上の兵もまたしかりで、おもてにまで薄金うすがね面頬めんぼおという物をかぶり、全身、矢も立たぬ不死身の武装——。どうもそんなぜいたくな武装は、禁軍ならでは三千もの武者にほどこし難い。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて一息休むと、雲霧は小判一枚、馬春堂の机の上にチリンと薄金うすがねの音をさせて
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)