こう)” の例文
或いは初枝女史の御不興をこうむるやも計り難いので、おっかな、びっくり、心にも無い悠遠な事どものみを申し述べました。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼は物好ものずきにもみずから進んでこのうしぐらい奇人に握手を求めた結果として、もう少しでとんだ迷惑をこうむるところであった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雪子が殆ど測り知れない災難をこうむることも、何も彼も計算に入れて見た上で、それでも結局非常手段を取る方が自分のために得策であると考えた
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
新兵が古兵にトッチメられるように威丈高いたけだかしかられたり、正月の年始が遅れたとか近火の見舞をいわなかったとかいうので勘気をこうむったりしたものもあった。
余の信仰行蹟こうせきを責むるにとどまらずして余の意見も本心もことごとく過酷の批評をこうむるに至れり。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
回鶻人の後裔達は——土耳古トルコ人との混血児あいのこだが——燐光を纒った狛犬を彼らの神の本尊とし、狛犬を祭った神殿に対し、もしも無礼を加えたものは恐ろしい神罰をこうむるだろうと
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
源「しからば御免をこうむる」
而もあの老人がそう云う災厄をこうむるに至ったのは、平中が時平に詰まらぬおしゃべりをしたからなのである。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その方が、殿のお言葉に従わぬとなると、縁に連らなるこの父も、ご不興こうむるは知れたことじゃ。とするとその方という人間は、殿に対しては不忠となり父に対しては不孝となる。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
男「御免をこうむる」
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は御免をこうむってと、ねずみの絹の襟巻えりまきをし、電気ストーブを背中に当てたり、電気布団を敷いたりして、風邪を引かぬ用心をしながら、物静かに、ぽつぽつ口をくのであったが
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一番迷惑をこうむるのはまだ売れ口の極まらない雪子であるから、と云い、その点は如何いかがでしょうか、他言しないと云う約束をして下さるでしょうか、と云うと、そんな御念には及びません
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「どうしようと君の勝手だが、僕はもう御免をこうむるぜ」
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)