荒川あらかわ)” の例文
先月からの雨に荒川あらかわがあふれたと見えて、川沿いの草木はみんな泥水どろみずをかむったままに干上がって一様に情けない灰色をしていた。
写生紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
初めわたくしはほどなく荒川あらかわ放水路の土手に達するつもりであったので、少し疲労を覚えると共に、にわかに方角が知りたくなった。
元八まん (新字新仮名) / 永井荷風(著)
荒川あらかわ放水路が北方から東南へ向けまず二筋になり、葛西川かさいがわ橋の下から一本の大幅おおはばの動きとなって、河口を海へかしている。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この境内に立つと、根岸田圃ねぎしたんぼから三河島村みかわしまむら、屏風を立てたような千住せんじゅはんの木林。遠くは荒川あらかわ国府台こうのだい筑波山つくばさんまでひと目で見渡すことが出来る。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「いえ、上野や向島むこうじまは駄目だが荒川あらかわは今がさかりだよ。荒川から萱野かやのへ行って桜草を取って王子へ廻って汽車で帰ってくる」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ボオトの場景が最後ラストかざり、ていれば、撮影さつえいされた覚えもある荒川あらかわ放水路、あししげみも、川面かわもさざなみも、すべて強烈きょうれつ斜陽しゃようの逆光線に、かがやいているなかを、エイト・オアス・シェルの影画シルエット
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
此の日向見川ひなたみがわ荒川あらかわと云うのが二筋ふたすじに別れて来ます。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そこは、荒川あらかわ区の隅田川すみだがわの上流でした。
探偵少年 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わたくしは近年市街と化した多摩川たまがわ沿岸、また荒川あらかわ沿岸の光景から推察して、江戸川えどがわ東岸の郊外も、大方樹木は乱伐せられ、草は踏みにじられ
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「そうですか、アハハハハ。荒川あらかわには緋桜ひざくらと云うのがあるが、浅葱桜あさぎざくらは珍らしい」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やむことをえず、わたくしはこれに代るところを荒川あらかわ放水路のつつみに求めて、折々杖を曳くのである。
放水路 (新字新仮名) / 永井荷風(著)