花客とくい)” の例文
「そんなことアわかッてら。でも元々、こんなところであきないはしなくても、親からのお花客とくいに、事は欠かねえ酒売りだよ。ばかにしてやがる」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
品川では軍艦ふねの方が大のお花客とくいでげすから、花里もその頃はまだ出たてゞはございますし、人々から注意をうけておろそかならぬ※待もてなしをいたしたので、海上も始終しょっちゅう通ってられましたが
味をしめて、古本を買込むので、床板を張出して、貸本のほかに、そのあきないをはじめたのはいいとして、手馴てなれぬ事の悲しさは、花客とくいのほかに、掻払かっぱらい抜取りの外道げどうがあるのに心づかない。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
花客とくいは常に上流の家庭である。だから料金はいつも高価である。外国にあるという、興行的な料金を取るものがどこかで秘密にやっていはしまいかと注意して見たが、これは気が付かなかった。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
こんなこすいことをしてゐる、よく花客とくいが知らずにゐるな、と言つた。
佃のわたし (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
棟梁は、こういう見栄坊な普請主ふしんぬしが、結句、お花客とくいにはなるので、云われる通りに、すぐ材木屋の手代をよんで板を返した。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女房はきがけに、安手な京焼の赤湯呑を引攫ひっさらうと、ごぼごぼと、仰向あおむくまであらためてうがいをしたが、俥で来たのなどは見た事もない、大事なお花客とくいである。たしない買水を惜気なく使った。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「足かけ二月ふたつき、永い御湯治ごとうじで。——てまえが、仙台から、会津福島の花客とくいを、ぐるりっと、一廻りして来ても、まだ御滞在と聞いたには驚きましたな」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
両替屋出入りの客などをお花客とくいにして、大きな商賈しょうことなっているうえ、渡り職人や、旅稼たびかせぎの女芸人にいたるまで、他国者よそものが入市するには、ぜひとも
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本所にお花客とくいが多いから、いっそ小さい店でもと、前触れしていたことが運んだとみえ、男世帯で女商売おんなあきない
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼のいちばんお花客とくい先は、横浜の船渠ドック会社であった。まだ菜っ葉いろの職工さえその門に見えないうちに、全市のかんかん虫は煙のように高い煉瓦塀の下に蝟集いしゅうする。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家は長崎で、反物たんものや装身具や支那画などの長崎骨董ながさきこっとうを持って、関西から江戸の花客とくいを廻り、あらかた金にすると、はるかりのように、遥々な故国ここくへ帰ってゆくのである。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「丹波の領家なんて、お花客とくいすじにも、心当りはないんだが。まあいいや、独り者の柳斎旦那だ。丹波であろうと、江口、神崎であろうと、そのうちにゃ帰って来なさるだろうて」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このへんを往還おうかんするので、すさびた軒の人々は、剣槍けんそうを見ても、驚くなどのふうはなく、かえって、よいお花客とくいとして、蠅のように、酒売りの男どもや、籠を頭にのせたひさなどが
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「礼は、はやい。店の大事なお花客とくいだし、先はお旗本の御隠居、どじをするなよ」
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
『今、親方は留守ですぜ。そして、帰りにゃあ、小網町のお花客とくいへ寄ってくると云ってたから、晩になりますぜ。どうです、晩まで、きっと帰って来るなら、あっしが、ひきうけますから、行って来ませんか』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)